(26)「グラッチェ」こそなかったが…ケーシー高峰さんは本物の名医のようだった
「○○ちゃんはまじめでいい子だね。ああいう子が売れてくれればいいね」
ケーシーさんはテレビでのフランクな口調とは打って変わり、紳士的な口調で話していた。実際、ケーシーさんは日大医学部に入学し、一度は医者を志した人だが、まるで本物の名医のような雰囲気さえ漂わせていた。ケーシーさんの言うその“いい子”とは当時、下品な言動で注目されていた女性タレントで、私は好きになれなかったが、この話を聞いて、なんだか好感を持てるようになったものだ。
「運転手さん、こんな遠くの知らない場所まで、すまないね。気を付けてお帰りなさい」
目的地に到着すると、得意の決まり文句「グラッチェ」こそなかったが、ケーシーさんは優しい言葉をかけてくれた。こうした芸能人との出会いは、タクシードライバーにとっては数少ない「役得」かもしれない。
ただ、悲しいかな、当時すでに離婚していた私には、家に帰ってもそんな話を聞いて喜んでくれる人はいなかった。一緒に暮らす老母を除いて……。