上原の大躍進 秘密は「メジャーで2番目に遅い球」と権藤博氏
上原浩治(38)の球は速くない。真っすぐの平均は144キロ。これは、メジャーの抑え投手で2番目に遅いのだという。144キロは平均の数字だから、140キロに届くか届かないかという程度の直球も少なくない。
例えば、大魔神といわれた佐々木主浩には150キロを超える速球があった。代名詞のフォークは140キロ。たまに投げるカーブは遊びのようなもので、真っすぐとフォークだけで三振の山を築いた。150キロの速球があるからこそフォークがより威力を発揮した。阪神で活躍した藤川球児(カブス)も同タイプに分類でき、ストッパーといえば? と聞かれたら、野球ファンの多くが佐々木や藤川のような投手をイメージするだろう。
スピードという点で、上原は明らかに2人より劣る。が、それがいい。140キロしか出ない速球が、ストッパー上原の強みになっているというのが、私の見立てだ。
佐々木のように真っすぐもフォークも超一級品となると、実はマイナスもある。バットにボールが当たらないから、「打たせて取る」ということがしにくい。抑えは、肉体的にも精神的にもハードなポジション。打者が1球でポンとポップフライを打ち上げてくれればラクなのにという場面でも、佐々木の真っすぐだとファウルか空振りになってしまう。結果、打者を打ち取るのに球数を要する。これが、長いシーズンや連投が続くときなどにボディーブローのように効いてくる。極端な言い方をすると、三振でしかアウトを取れない、というジレンマを佐々木は抱えていたわけだ。