江夏豊氏が若手の気質と練習に苦言「今のキャンプ手ぬるい」
野球とベースボールは違う
――江夏さんはキャンプ中、ブルペンで何球くらい投げてましたか?
村山実さんが2800球を投げて、僕はそれ以上と思っていたから3000球を目指した。キャンプ中盤くらいから1日220球ほど。休日前は300球が目標でした。
――今ならコーチがストップをかけますね。
今はメジャーの影響で「肩は消耗品」という考えがある。僕も85年にメジャーのキャンプに参加して勉強させてもらったから、良いものはどんどん取り入れていけばいいと思う。でも、日本は「野球」でアメリカは「ベースボール」。違いがあるんだから、日本的な良いものは継続していくことも大事です。
――昨今の投手はスピード重視の傾向があります。日本ハムの大谷クンが160キロを投げれば大騒ぎです。
一番悪いのはマスコミじゃ(笑い)。どんどん書きたてるんだから。
――最近の投手はスピードと、変化球を覚えることを追いかけすぎて、肝心の制球力が落ちたと感じませんか?
速い球を投げるのは投手としては夢。追いかけるのはいいけど、何でもかんでもアメリカの真似では。今は変化球でもチェンジアップ、ツーシーム、カットボールなどいろいろな呼び方がある。僕らの頃はカーブ、スライダー、フォークくらいしかなくて、そういう球は投げていたけど、呼び名がないから特殊球ということで片付けていた。結局、投げられるボールは限られているんだからいかに真っすぐを狙ったところにコントロールできるかが投手の原点。今の投手に理解してもらいたいのは、コースに投げるのは「技術」、低めに投げるのは「気持ち」だということ。意識があれば低めにボールが行く。そしてコースに投げるには、フォームを安定させて、正しい回転のボールを投げる必要がある。それにはキャッチボールから固めていかないと。
――メジャーでは低めに対する意識が徹底されています。
日本はブルペンで3球ワンバウンドを投げると捕手は嫌な顔をしますよ。メジャーは低めに投げる分には平気。その代わり、捕手の顔より上に投げると嫌な顔をする。だからメジャーの捕手はワンバウンドを捕るのがうまい。捕れなくても体の前に落とします。
――日本に戻ってきた黒田については、どう思いますか?
メジャーで7年間、投球を勉強して、低めに投げて、ボールを動かせる。ベース上で動かすというのを覚えてきた。ベースから外れると打者は手を出さないから。日本でも十分に通用すると思いますね。
▽えなつ・ゆたか 1948年、兵庫県尼崎市出身。67年、大阪学院大学高から阪神入団。「ON」との対決に執念を燃やし、85年に引退するまで5球団で活躍。最多勝2回、最優秀防御率1回、最多奪三振6回、最優秀救援投手5回、最優秀投手1回、沢村賞1回など数々のタイトルを獲得。現役時代は「優勝請負人」と呼ばれ、20世紀最高の投手のひとり。現在、週刊プレイボーイで「江夏豊のアウトロー野球論」を連載中。