日本男子体操「伝説の補欠」が語る五輪演技“幽体離脱”体験
――でも、大きな失敗はなく、日本は金メダルでした。演技のことは覚えていますか?
「最初の演技は床でしたが、極限の緊張から全く覚えていません。2日目の最後の演技は鉄棒。これだけはよく覚えています。なぜなら、鉄棒を持った瞬間、プロテクターが鉄棒にしっかり絡み、いつもと同じだなと思ったら、不思議な体験をしたからです。意識とは別に、体が自然にというか、オートマチックに演技を進めていく自分と、その姿を鉄棒の上の方から客観的に見ている自分がいた。幽体離脱とでもいうのでしょうか。演技はミスなく続き、世界初の下り技『後方伸身2回宙返り下り』の着地も全く動かなかった。あんな体験をしたのは、あの時が最初で最後です。初日首位のソ連を逆転しての優勝で、表彰台に上がったときは国歌が流れていたので、不謹慎なのですが、とにかく休みたいという思いでした。私はモントリオール五輪の経験から、最悪の状況を想定し、それを受け入れたら、その後は覚悟を決めて最善を尽くすということを学びました」
最後に五十嵐氏は、リオ五輪での活躍が期待される男子体操チームにエールを送った。