日本中が歓迎ムード…だからこそ心配な稀勢の里の心と体
72代横綱の稀勢の里は「勝負師は感情を表に出すな」という亡き先代師匠の鳴戸親方(元横綱・隆の里)の教えを今も愚直に守っている。テレビのCMには出ないし、タニマチと酒に溺れることもない。女性問題とも無縁だ。責任感が強く、通常はニコリともしない「昭和の横綱」を彷彿とさせる。この横綱に限って、土俵外の行動が相撲に悪影響を及ぼすことはないだろう。
■背負う重圧に蝕まれる肉体
問題なのは、前出の松野氏が指摘したように原則外の昇格だ。何度も綱とりのチャンスを逃してきた稀勢の里だからこそ、誰よりこの事実を重く受け止めているのではないだろうか。19年ぶりに誕生した日本出身横綱の背中にかかる重圧は、外国人横綱とは比べものにならない。それこそが30歳の肉体を蝕む要因にならないか。
「内臓なら胃腸への負担が懸念されます」と言うのは、寺田病院名誉院長で好角家の澤井廣量氏だ。
「確かに横綱になった稀勢の里には、これまでとは違う緊張やストレスがかかることは想像に難くない。内臓の中でも、胃腸はとくに精神状態の影響を受けやすい。緊張により食欲が減退することは誰にもあるでしょうが、過度なストレスは交感神経を刺激し、胃酸を多く発生させる。ひどいケースでは胃の粘膜を傷つけ、穴(胃穿孔)をあけてしまうこともある。過敏性腸炎になれば下痢をして、十分な栄養が取れない。ストレスが解消されない場合は、症状が悪化します。食べるのも稽古のうちといわれる力士にとって、胃腸系の病気は土俵寿命を縮めるといっても過言ではない」