小久保監督が「投手12人でも構いませんか」と聞いてきた
WBCから帰国して3日後、何げなくテレビを眺めていたら、朝の情報番組でコメンテーターを務める張本勲君が、自身が持つ人気コーナーで大会を振り返っていた。日本が米国に敗れた準決勝に触れ、「指導者経験のない小久保監督にはいいコーチをつけてやるべきだった。コーチが監督の言うことを聞かないで、チームをかき回していてはダメですよ」というようなことを言っているのを聞きながら、はて、誰のことだろうか? と思っていたら、知人からメールが来た。
「あれ、権藤さんのことですか?」
冷やかすように聞いてくるので、こちらも冗談で返したが、“小久保監督と衝突するとしたら、権藤しかいない”と思った人が多かったかもしれない。今回の侍ジャパンの首脳陣で45歳の小久保監督より年が上なのは、48歳の奈良原ヘッドコーチと私しかいなかった。特に私は、監督とふた回り以上も違う78歳。過去に近鉄や中日の投手コーチとして、選手を守るために監督とずいぶんやりあってきたのは事実だから、そんなイメージを持たれるのは仕方がない。
結論から言うと、小久保監督とは一切、ぶつかることはなかった。正直に言えば、投手コーチとして声をかけてもらった当初は、時には監督に耳の痛いことも言わなくてはいけないな、それができなければ私が呼ばれた意味がないな、と思っていた。とはいえ、小久保監督とはもともと定期的に野球談議を交わす仲。互いの考え方は分かっていたし、実際に同じユニホームに袖を通してみると、すぐに阿吽の呼吸という関係ができた。