英断か? 大船渡監督の決勝“勝ち度外視”采配に数々の疑問
最速163キロ右腕、大船渡・佐々木朗希(3年)の最後の夏があっけなく幕を閉じた。
25日、甲子園まであと1勝に迫った岩手大会決勝の相手は、昨夏の甲子園に出場している花巻東。今大会で初めて佐々木が強豪私学と対戦する大一番とあって、朝から岩手県営野球場には長蛇の列ができた。BS朝日が急きょ生中継を決定するなど、日本中が注目したが、佐々木は先発登板を回避。定位置の「4番」にも入らずベンチスタートとなった。
結局、最後まで出場機会がないまま、2―12で大敗。1984年以来となる悲願の甲子園出場はならなかった。
佐々木は24日の準決勝・一関工戦で129球を投げ、15奪三振で2安打完封勝利を収めていた。大船渡の国保陽平監督(32)は佐々木を登板させなかったことについて「私が判断した。故障を防ぐためです。投げられる状態であったかもしれないが、理由は球数、登板間隔、気温。今日は暑いですし、決勝戦というプレッシャーがかかる場面で、今までの3年間の中で一番壊れる可能性が高いと思い、私には(登板させる)決断ができなかった」と説明した。
■敗れた監督は英断か無能か
今大会で大船渡を追ったノンフィクションライターの柳川悠二氏がこう言う。
「試合後、監督は『どういう展開なら勝てたか』というような質問に対し『30対29の試合なら』と答えていた。冗談半分にしても29点取られることを覚悟していたのが本心かと思うほど、今日の試合はハナから勝ちを捨てていたとの印象です。佐々木に限らず、3日前に投げた大和田と和田を登板させなかったように、選手の体を第一に考えていることは理解できます。ただ、甲子園に出たいという選手たちの思いを踏みにじるような、勝ちを度外視した采配はどうかと思う。決勝で佐々木を登板回避させるぐらいなら、準決勝は別の投手を起用しても良かったのでは。佐々木自身、『決勝で負けたら1回戦で負けるのと同じ』と話していましたからね」
■連投を避けたいなら準決勝を回避
確かに何が何でも連投させない方針なら、ノーシードから勝ち上がった公立校相手の準決勝で登板を回避させるなり、リリーフ待機させるといった手があったはず。実際、準々決勝で対戦したシード校の久慈戦は佐々木が登板せず、勝利している。
柳川氏が続ける。
「そもそも、国保監督は大会直前の練習試合では佐々木を連投させています。それは、こうした連戦を見据えての準備ではなかったのか。準決勝で佐々木を投げさせるにしても、5回で降ろすとか、いろいろ考えられたはず。この日も初回、先発の柴田がアップアップの中でも、国保監督はブルペンで準備をさせていない。少なくとも、四回までは誰もブルペンで投げていない。投手がブルペンで肩をつくり始めたのは、それ以降、しかも部員が自発的にやったことです。佐々木が194球を投げた試合でも、誰も肩をつくっていませんでしたから。国保監督は選手への言葉が何もない。円陣にも加わらない。これでは、オーダー決めと佐々木を使うか使わないかの判断くらいしかしていないことになります。この日、部員には佐々木が先発しないことは伝えられたが、全く投げさせるつもりがないことは伝えられていませんでした」
中学時代、県内の強豪私学からの誘いを断り、大船渡一中や選抜チームで一緒になった仲間と「このメンバーで甲子園へ」と地元・大船渡進学を決めた。識者やメディアは国保監督の用兵を訳知り顔で「英断」なんて言っているが、佐々木のコンディションに配慮をしつつ、この絶対エースを最大限に生かしながら、甲子園へ出場するための最善策を考えるのも、監督の仕事だ。
普段は「ノーサイン野球」で自主性を重んじるが、決勝まで駒を進めた今こそ、佐々木やナインの夢をかなえるための腕の見せどころではなかったか。そんな機会を、この青年監督は放棄したのである。
佐々木は「監督の判断なのでしょうがない」としたものの、「高校野球をやっている以上、試合に出たいと思っている。投げたい気持ちはあった」と無念さをにじませた。
本当にこれで良かったのか――。日本中の高校野球ファンの多くが釈然としない終幕である。