東京世陸の運営責任者がマラソン・競歩の札幌開催に大反論

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理論武装するべきだった

 帖佐氏の怒りは、競技団体にも向けられた。

「ドーハの世界陸上は、暑さを避けるためにマラソン、競歩が深夜スタートになった。あれはIAAFの大きなミスだ。世界陸上で真夜中に競技をやったのは過去に例がない。現地の人が寝ている時間に国際レースを行うのは不見識だ。深夜のレースでも、女子マラソンは68人中、途中棄権が28人。男子50キロ競歩も46人中18人が途中棄権した。東京五輪を控えるIOCはあの結果に衝撃を受けたんだな。東京五輪で同じことが起これば、世界から批判の声が噴出するということを恐れたのだろう。世界陸上の後に、何かしらのアクションを起こすことは予想できた。それでなくても東京五輪の猛暑はここ数年、マスコミのネタになっていた。陸連は医事委員会が動くなり、国立スポーツ科学センターの力を借りるなどして、『マラソンも競歩も東京で大丈夫です』と言えるだけの理論武装をしておくべきだった。『マラソン、競歩は札幌で分離開催する』と言われ、東京都は慌てて『マラソンのスタートは5時前にします。競歩は日陰のあるコースに変更します』とIOCに提案したそうだが、そもそも、日陰のまったくない皇居前の周回コースで競歩をやるなんて誰が考えたのだ。それこそ人道上の問題だ。ドーハで金メダル(50キロ競歩)を取った鈴木雄介はレース終盤、立ち止まって給水していただろ。あれは『止まって飲まないと水が喉を通らなかったからです』と言ってたよ。ああなると、もうスポーツではない。東京五輪の競歩を皇居前で行えば、ドーハ以上の厳しいレースになることは間違いない。もう一度言うが、それはスポーツではないぞ。マラソン、競歩の札幌開催の報道が出てから、関係者は右往左往している。国内で歓迎しているのは札幌の人たちぐらいじゃないか。先日も日本陸連の事務局長に言ったんだ。『陸連の足腰がしっかりしてないから、こういうことになるんだ』と。IOCに言われっぱなしでは情けないだろ」

 帖佐氏は陸連の専務理事だった91年の世界陸上東京大会の運営責任者だった。男子マラソンは谷口浩美が金メダル。女子は山下佐知子(現東京五輪ナショナルチーム女子強化コーチ)が銀メダル。50キロ競歩は今村文男(現陸連競歩強化コーチ)が7位入賞と健闘した。

「IAAF現会長のセバスチャン・コーは朝日新聞のインタビュー(9月10日付)で『91年の東京での世界陸上は歴代最高の一つ。大会運営の質が素晴らしく、今も語り継がれている』と言ってくれた。運営責任者としてはうれしいよ。マラソン、競歩は高温多湿の中、途中棄権者が多数出た(※)が、あれから28年も経ている。情報もあるし、暑さ対策の研究も進んでいる。来年の五輪は遮熱性舗装やミスト、大型扇風機などを導入する。さらに日差しを遮る工夫をし、給水ポイントを増やすなどすれば、マラソンは6時スタートでいける。すでに世界中の選手が夏の東京をイメージして練習を重ねている。東京都が提案する5時前スタートでは、選手は1時ごろに起きることになる。選手はしっかり調整すると思うが、競技をサポートするスタッフやボランティアなど約600人以上は徹夜だ。そんな時間では沿道で声援を送ってくれる観客もまばらだろう。夜のレースは警備上の問題から無理だ。50キロ競歩は皇居前のコースを変更する。91年と同じく国立競技場から青山通りに出る周回コースを提案する。陸連はIOCに言われっぱなしではなく、マラソン、競歩を東京で行うためにもっと汗をかくべきだ。近代五輪誕生とともに生まれたマラソンは他の五輪種目とは違う。IOCは故事来歴を軽視してはいかんよ。最終日に行う意味を忘れては困る」

(※)男子マラソン(9月1日、スタート6時、気温26度、湿度73%)は60人が出場し、24人が途中棄権。谷口浩美が世界陸上では日本人選手として史上初の金メダルを獲得。女子マラソン(8月25日、スタート7時、気温26度、湿度70%)は出場38人、途中棄権14人。山下佐知子が銀メダル。男子50キロ競歩(同31日)のスタートは7時。台風の影響で横殴りの雨の中も、3時間後には快晴となり、気温30度、湿度97%を記録。完走は38人中24人。今村文男が日本競歩史上初の7位入賞を果たした。

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