東京五輪の負の遺産も未知のまま…札幌招致に突っ走る狂気
環境破壊や五輪利権をめぐる問題
日本はかつて冬季五輪で痛い目にあっている。「堤義明とオリンピック」(三一書房)の著者でスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が言う。
「98年の長野五輪は、観光地開発を目指した堤義明氏(当時の西武鉄道グループオーナー)のひとり勝ちでした。長野には保有するスキー場が多数あるので、自らの利権のために五輪を利用したのです。道路ができ、新幹線も通り、西武が開発に力を入れていた軽井沢も大きく変わった。一方、五輪後は、ボブスレー・リュージュの会場『スパイラル』は年間維持費が2億円以上もかかり、長野県や長野市などは多くの負債を抱えることになった。自然破壊と負のレガシーを残した大会でした」
98年長野五輪招致委員会の会計帳簿類が保管されていなかったことは大きな問題になった。これだけでもうさんくささを感じるが、その金額も含めれば「長野五輪の関連経費は2兆円近い」(地元関係者)との声もある。長野市の負債(起債)だけでも利子を入れて約695億円。返済に20年の歳月を要した。
「約2週間のイベントのために莫大なカネを払って開催するメリットが少ないことは多くの国がわかっていて、バッハ会長も五輪の継続に危機感を持っている。冬季五輪は積雪やアルペン競技には相応の標高差の山が必要です。条件が厳しいことから、招致できる都市も限られる。札幌は72年の五輪で恵庭岳を大量のダイナマイトで破壊し、滑降コースをつくった。その反省もないまま、また五輪を招致するのか。札幌には滑降のコース基準を満たす山(標高差800メートル以上)がない。今度はニセコと分散開催にするという。IOCにとって開催国の自然破壊など関係ない。バッハ会長は大喜びですよ」(前出の谷口氏)
まったくだ。欧州の都市が五輪開催に消極的になってきた昨今、「冬季五輪は極東の日本、中国、韓国で持ち回り開催になるのでは」という谷口氏の指摘は、あながち冗談と笑い飛ばせない話なのだ。
スポーツライターの津田俊樹氏もこう語る。
「前回の東京五輪を開催した時のように、日本経済は右肩上がりではない。五輪はもうけっこう、違うところに税金を使ってくれと言う人も多いでしょう。東京五輪後の施設の後利用や維持費の問題、経済の落ち込みなども懸念されている。文科省、スポーツ庁、JOCなど官民一体で徹底的な検証をしなければなりません。それを踏まえて、日本が今後のオリンピックムーブメントにどう関わっていくのか、方向性を決めればいいのです。
札幌、北海道は東京と違い、経済的裏付けなどなく、五輪を開催するなら国が中核になるでしょう。時間がないからと甘い検証で立候補すれば、後世に禍根を残します。超高齢化社会に5度目の五輪開催は本当に必要なのか、国民的議論が求められますが、五輪好きの国民ですからね。再び、札幌五輪へ一直線というムードになりかねません」
IOCにとって、やっぱり日本は特上の「お得意さま」だ。