ホテルで2人お茶を テーブルにあった書きかけの野村ノート
「あっちへ行け」と言われたのがウソのようだった。ヤクルト監督2年目のユマキャンプ、練習休みに監督の部屋へ押しかけて、2人でお茶を、ということが許された。
ヤクルトの宿舎は、スターダストホテルといった。監督にはスイートルームが用意されていたが、砂漠の中の一流ホテルでは、豪華とは言えなかった。
「おい、キンツバ食うか」と誘われた。
「甘いの、いかん言われとるんやがな。持ってきた」と、うれしそうな表情を見せた。
監督がキンツバを切り、記者がお茶を入れて、テーブルを囲んだ。そのテーブルの上に、書きかけのノートが、ページを開いたまま置いてあった。普通の大学ノート。丁寧な文字がびっしり書かれている。
「野村ノート」
それに気づいたとき、ほかのものが目に入らなくなった。キンツバの味もわからず、監督との会話も身に入らない。
「野村ノート」は、ミーティングのネタ本である。というより、野村監督の野球観のすべてが、書かれている。まだ、当時、「野村ノート」は出版されていなかった。