レッズ秋山を直撃 武器捨てての「パワーアップ必要なし」

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秋山翔吾(レッズ・外野手・32歳)

 メジャー1年目は受難のシーズンだったが、それでも持ち味を随所に発揮した。昨年8月14日のパイレーツ戦で本塁打性の当たりを左翼フェンスに激突しながら捕球するなど、好フィールディングを披露。タイラー・オニール(カージナルス)、デービッド・ペラルタ(ダイヤモンドバックス)とともにゴールドグラブ賞の最終候補3人に残った秋山翔吾選手(32)を直撃した。

■「何が評価されたのか分からない」

 ――ゴールドグラブ賞候補に挙がりました。

「まさか、最後の3人に残るとは思っていなかったです。日本ではフル出場していて、他の選手の実力も分かりますが、それがこの短いシーズンの中、知らなかったこともあり、僕の守備のどういう点が評価されたのかも分かりませんでした。今回は投票ではなく、守備の数値が選考基準になったと聞きましたが、その数値も分からない。そもそも規定打席に到達していませんし、左翼手部門で選出されていた他の選手と比べても守備機会が少なかったこともあり、そのメンバーに入れたことに驚きました」

 ――守備力が評価されて自信になりましたか?

「今シーズンは試合に出場して、昨季のような守備を続けていくことが重要です。それがひとつのモチベーションになります。守備は数字に出にくいところがあります。どういったプレーが評価されるか分からないので、常に見られている中で集中しないといけないんだなと改めて思いました。パワーがあり、打撃の強い選手の中に入っていくので、自分が生き残るためには守備であり、足が武器として必要なこと。それに加えて、もちろんのことながら打撃でも見える数字を残すことが重要だと考えています」

 ――首脳陣からは機動力を期待されていますよね?

「役割をはっきりと言われたことはないです。ただ、クリーンアップを打つバッターではないと思っていますし、1番として出塁、さらには長打を増やしていけたらいいなと思っています。それができれば、出場機会も増えてくるでしょうし、本塁打を打つ選手の前に投手が嫌がるような出塁の仕方を心掛けたり、もっと安打や出塁、四球を増やして僕の役割を認めさせるしかないなと考えています」

■「こいつを出さないと」と思わせたい

 ――ベル監督は出場機会が増えると話していますが?

「僕をラインアップに入れたいと思わせるような取り組みをしたり、結果を残すだけだと思います。レッズには若い選手も多いですし、力のある選手も多いです。そんなメンバーの中で、僕のプレーを首脳陣やファンに見せることで、レッズにとって必要だと思わせる選手でいたい。『こいつを出さないと』と思わせたいです」

ホームラン15本打ってもケガ

 ――打撃で結果を残すためにパワーアップは考えていますか?

「この年齢で体重を増やしたりパワーアップすれば、本来アピールしなければいけない守備、走塁のパフォーマンスが落ちると思います。若い頃に体重を増やそうと思ったこともありましたが、このオフで増やすのは年齢的なものもありますから無理です。仮にこのオフに体重を10キロ増やしてホームラン15本打ってもケガをすると思う。守れなくなっているでしょうしチームには15本打つ選手はたくさんいるわけで、自分の勝負しなきゃいけないものを捨ててまで、パワーアップすることは考えていないですね」

 ――筋力よりも技術の向上ということですか?

「打撃のレベルアップは大前提ですが、体重が増えたから打撃が良くなるとは限りません。膝や他の関節に負担がかかるし、選手生命を縮める可能性もあります。体重を増やさないのも賭けかもしれません。今の体形でメジャーに移籍してパワーの差を感じたのは事実ですが、勝負できるものを探して練習をしていくことが最善かなと考えています」

 ――体調管理はどんなことに気を配っていますか。

「毎日、体重を量ってベストの85キロを維持するようにしています。前日に食べ過ぎたらトレーニングしたり、疲労などで体重が減ったら食事で補っています。その結果、ベスト体重のプラスマイナス1~2キロ程度に抑えて体調管理もしてきたので、ケガにつながらなかったと自負しています」

 昨季の秋山は中地区の投手と相対したが、カブス・ダルビッシュ(現パドレス)、ツインズ・前田のすごさを目の当たりにしたという。

 ――前田から何か助言をもらいましたか?

「前田自身も取り入れているそうですが、メジャーには小さい動きの変化で打者のタイミングをずらす投手が多いとアドバイスをもらいました。ロスで前田と対戦する機会があり、足を長く上げているとか、早めに上げるとか、後で見比べて分かるものもあれば、気付かないほどの違いもあり、打席に立っている時に分かることもありますが、言われて、改めて『そうかな』と分かる投手もいます。同じテンポのように見えている中でも、相手のフォームとか、タイミングの外し方などをシーズンに入って注視できたので、それはすごく助かりました。フォームは同じでも間が違ったりするので、打席で自分の足を上げるパターンを考えられました。考える引き出し、目の付けどころが増えたので、前田の言葉が大きかったです」

 ――印象に残った投手はいますか?

「サイ・ヤング賞を受賞したインディアンス・ビーバー(昨季8勝1敗、防御率1.63、122奪三振)、同じナ・リーグではブルワーズ・ウッドラフ(同3勝5敗、防御率3.05)の両右腕です。好投手なので簡単に攻略できませんが、追い込まれてからファウルにしたい時にさせてくれない。このコースならファウルにできるはずなのに、バットに当たらなかった。それが何球もありました」

 ――サイ・ヤング賞の最終候補に残ったダルビッシュ投手についてはいかがですか?

「2試合対戦して、自分で映像を見て、データを分類するのですが、その球種の中でもおそらく、ダルビッシュさんの中で細分化されているのではないかと感じました。普通の投手であれば、変化球の軌道は1パターンです。そんな中、ダルビッシュさんはスライダーと分類する中でも同じ球速で縦と横を操れたり、カーブも同じ軌道で球速を変えるなどしているように感じました。いくつもの変化球を何パターンも細分化することはとても難しいはずです。本来ひとつの球種を磨くのが精いっぱいでしょうし、試合で使うとなれば精度が上がらなければ使えません。同じ球種でも、相手打者のタイミングが合わないボールを投げ分けていますし、そういった力も含めてサイ・ヤング賞の候補に挙がる投手なんだろうなと感じました」

 ――打者としては攻略が難しい投手ですか。

「打者は、この変化球が来た時に、こういうバットの出し方をするなど、イメージをつくらないと打てません。同じ変化球がイメージしたスピードで来たのに違う変化をしたり、コースもきっちりと決まる。球種が多いだけでなく、それらをきっちりとコースに投げ分けています。映像を見ても、分析しづらい投手です。レッズと対戦した時は、マウンドでサインに対して首を振る回数も多かったように感じました。状況ごとにどんな球種で打ち取るというイメージや感性も鋭いからだと思います」

 ――サイ・ヤング賞右腕バウアーは同僚としてどう見ていましたか?

「自分で練習メニューを組んで黙々とこなしていました。SNSを駆使したり、パソコンにも強い。パソコンを使って自分の体調を管理していましたし、器具を使って自分の状態を把握しているのを毎日見ていました。毎日同じことを続けていく中で、その日のコンディションが分かる選手は強いと改めて感じました。彼の出した結果を見て、いっそう毎日続けていくことの重要性を再認識させてもらいました」

 ルーキーには難しいシーズンを強いられた。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、開幕が大幅に遅れ、レギュラーシーズンは通常の162試合から60試合に短縮。若手外野手と併用され、出場機会も限られた。それでも、少ない出番を生かして9月はチーム最高の月間打率.317、出塁率.456とリードオフマンとして牽引し、チームの7年ぶりポストシーズン進出に貢献した。

 ――コロナ禍に見舞われた移籍1年目を振り返っていかがですか?

「日本のプロ野球でもそうでしたが、メジャーリーグの開催時期、試合数もイレギュラーなものでした。その中で、成果を上げられるかどうか、それは僕の実力の問題だと考えていました。応援して下さった方からはよく『大変だったね』と声をかけていただきましたが、これは野球だけが特別なシーズンになったのではなく、どの職業の方やどんな環境の中にいた方でも言えることなので、結果を出せなかったのは自分の力不足でしかありません」

 ――開幕が延期されて不安はありませんでしたか?

「5月中旬ごろは『本当に再開するのかな?』と考えたことはありました。その後のMLBと選手会による話し合いで折り合いがつかず、いつに向けて調整すればいいのかが見えなかったのが、怖いというか難しかったです。企業や飲食業、宿泊業など、さらに医療従事者の方々のニュースを見ると、大変な環境の中で自分だけが苦しいわけではない、言い訳はできないし、開幕を信じてやるしかないと思ってました」

 ――自粛期間中は同い年の前田とロサンゼルスで自主トレしていましたが?

「ロスで一緒にやったトレーナーが、長期的なスパンでトレーニングを考えてくれたおかげで、飽きることなく調整を続けることができました。3カ月以上は開幕しないと見越して、目安を立ててメニューを組んでくれていたので、ロスにいる3カ月半の間で、オフにやるような計画的なトレーニングができたことがケガをせずにシーズンを終えることができた要因だと思います。強度を上げては落とすのではなく、徐々に強度を上げていくようなメニューでした」

 ――シーズンが短縮された移籍1年目は不完全燃焼に終わったのではないのですか?

「中止にならなかっただけ良かったです。全体として100試合以上短縮され、60試合しかなかったこともあり、体調的には整えやすかったです。今季、この経験をどう生かせるか、どう結びつけるのかが僕の課題になると思います。メジャーの習慣だったり、試合前の動き方などは基本的に変わらなかったので、それをこのシーズンで経験できたのは良かったですが、フルシーズンを経験してないので、全てを分かっているわけではありません。昨季の経験は必ずプラスにしたいです」

 ――食事はどうしていたのですか?

「レッズでは弁当が出たので困らなかったです。基本、外出禁止で外食はできませんでした。僕はわりとなんでも食べられたので、困りませんでした。コンビニなどで買い物はできましたが、それも事前に許可を取って全て行動は管理されていました。全てが自由だったわけではないですが、不便はなかったです。ただ日本では何か困った時はコーチや球団の方に気軽に相談できましたが、アメリカではまだ言葉が通じないので基本的に通訳に頼りきる状況になってしまっていました」

∇秋山翔吾(あきやま・しょうご) 1988年4月16日生まれ、神奈川県横須賀市出身。横浜創学館高、八戸大を経て、2010年のドラフト3位で西武に入団。15年に216安打を放ちシーズン最多安打記録を更新。首位打者(17年)、最多安打4回(15、17~19年)のタイトルを引っ提げて19年オフ、海外FA権を行使してレッズに移籍した。昨季54試合に出場して打率.245、0本塁打、9打点、7盗塁。

【連載】大リーグ直撃インタビュー

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