eスポーツを「スポーツ」と思っていますか 連合幹部を直撃
五輪はどこへ向かっていくのだろうか。
国際オリンピック委員会(IOC)は若者の関心を引こうと、続々と新種目を採用している。今年の東京五輪からはスケートボードやサーフィン、スポーツクライミングなどが新たに加わった。昨年の暮れには2024年パリ五輪でブレークダンスが正式種目となることが決定され、大きな話題を呼んだ。ブレークダンスは体全体を使うため、「スポーツ」と言われればうなずけなくもない。では、コンピューターやビデオゲームを使った対戦の「eスポーツ」はどうなのか。すでに22年アジア大会の正式種目となっており、IOCは近い将来、五輪種目にするかもしれない。
しかし、「eスポーツはスポーツとは認めない」と、ブレークダンスよりも強い拒否反応を示す者が少なくない。この状況を一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)はどう捉えているのか。浜村弘一副会長を直撃した。
◇ ◇ ◇
――「eスポーツはスポーツではない」という声が数多くあります。
「“スポーツ”の概念は時代と共に変化しています。たとえば、一昨年に放送されたNHK大河ドラマ『いだてん』にもありましたが、マラソンですら『ただの駆けっこがなぜスポーツなのか』と言われる時代があったのです。しかし、もともと『スポーツ』の語源はラテン語で、『楽しむ』という意味がある。現に、IOC認定競技の中には国際チェス連盟や、トランプゲームの世界ブリッジ連合なども含まれており、それらもスポーツとして認められています」
――ご自身は、eスポーツを「スポーツ」だと思っていますか。
「はい。私はプレーする人間も見ていますから。たしかに、映し出される画面だけ見てスポーツだと思う人は少ないでしょう。ですが、一昨年の、eスポーツが茨城国体文化プログラムで採用されたときのことです。勝負に敗れた選手は相手チームと握手し、泣きながら『俺たちの分も……』と言ったんです。これを見た父兄さんたちは『今までは息子から“スポーツだ”と言われても意味が分からなかったが、認識が変わった』とおっしゃっていました」
――アジア大会同様、将来、五輪種目に採用される可能性はありますか。
「我々は28年のロス五輪をターゲットにしており、IOCとも協議を進めています。夏季だけではない。30年の冬季五輪は札幌で開催される可能性があり、そこも焦点となっているんです」
――なぜeスポーツが冬季五輪の競技なのですか。
「なにが種目になるのかは主催都市の意向が大きい。札幌の関係者はeスポーツ導入に積極的なんです。それに、夏季五輪は種目数が多く、1つ入れたら外すものを考えなくてはいけない。一方、冬季五輪には余白が大きいので参入しやすいのです」
「“食っていける環境”を用意するためにも五輪は必要手段」
――そもそも、なぜeスポーツは五輪種目入りを狙っているのですか。
「選手たちの地位を高めたいからです。現在はごく一部のトップ選手を除いて、eスポーツだけで“十分食っていける”と言える状態ではありません。『スポーツではない』という世間の目もある。だからこそ、五輪やアジア大会に出て、認知度を高めていきたいんです。eスポーツで取った金メダルも、柔道の金メダルも価値はまったく同じ。大きく取り上げられることで、ラグビーのように、選手を応援し始める『にわかファン』が増えてくれることを期待します。そうしたらスポンサーも付きやすいからです。近頃は将来の夢にプロゲーマーを挙げてくれる子が増えてきています。彼らが大きくなった時に、“食っていける環境”を用意したい。そのためにも五輪は必要な手段なのです」
――仮にロス五輪、札幌五輪で正式種目になったら、eスポーツに対する世間の目は変わると思いますか。
「まず今年、アジア大会のひとつ下のランクに位置する、アジアインドア&マーシャルアーツゲームズにも種目入りしています。さらには26年アジア大会は名古屋市で開かれるので、大々的にアピールできる機会がある。日本はゲーム大国です。ファミコンの登場から40年近く経ち、当時遊んでいた大学生も50歳を越えていて、ゲーム経験者は5800万人に上るといわれています。見たことがある、触ったことがある、興味を喚起できる人の数がとても多いので、『スポーツじゃない』とアレルギーを起こす人たちの考えが変わってくれる可能性は十分にあるはずです」
――理解を広げるにあたり“やっかいな年齢層”はどこだと考えますか。
「若くなればなるほど、競技として受け入れやすいと思います。年齢層が高い人は、いくら言っても見ないでしょう。ですが、若い人たちが見ていて、『話題になっているんだ』というところから興味を持ってほしいと考えています」
(聞き手=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)