大谷“2年9億円決着”全内幕 二刀流復活へエ軍の読みと打算
「2年契約は双方にとって妥当な落としどころ。お互いに納得しているし、話がまとまって良かった」
エンゼルスのペリー・ミナシアンGMが満足そうに話した。
■公聴会を回避したかった
大谷翔平(26)との年俸調停を避け、日本時間9日に2年総額850万ドル(約8億9300万円)で契約。今季の年俸は300万ドル(約3億1500万円)、来季は550万ドル(約5億7800万円)となる。
メジャー3年目を終えて年俸調停権を得た大谷の希望年俸は330万ドル(約3億4700万円)。球団提示の250万ドル(約2億6300万円)とは約8400万円の開きがあった。19日には双方が金額の正当性を主張するオンラインでの公聴会が予定されていたが、球団は2年総額で大谷の希望をはるかに上回る金額を提示して合意にこぎつけた。
メジャーの複数年契約は長期になるほど、総額が抑えられるのが一般的だ。大谷は1年目こそ約3億円と低めに抑えられているものの、2年目は約5億8000万円と倍近くに跳ね上がる。2年総額で当初の希望額の3倍弱の金額を手にするのだ。
ミナシアンGMは大谷の2年契約について「1年契約でまとめるには時間がなさすぎた。これまで(二刀流)の例があまりなく、ユニークなケースだからだ。彼の価値は従来の物差しでは測れない」と説明。予算権限を持つ編成トップとしても難しい判断だったと明かしたが、公聴会までもつれ、双方に感情的なしこりが残ることは避けたかったに違いない。
「年俸調停までもつれた場合、裁定は労働問題を専門に扱う弁護士3人によって行われます。球団側は公聴会で金額の正当性を証明するため、選手のマイナス材料ばかりを強調する。選手側も起用法に関する不満をぶちまけるなど、泥仕合になるケースも多い。公聴会は裁判さながらの緊張感に包まれます。したがって両者の間には感情的なしこりが残ってしまう。大谷を主力のひとりと位置付けるエ軍は本人の心証を害することだけは避けたかったのではないか」(スポーツライター・友成那智氏)
精神的にも肉体的にも万全
エ軍フロントの打算もあるだろう。
ミナシアンGMは大谷に関して、「精神的にも肉体的にも、シーズンを迎える準備ができている。このチームで投打にわたって貢献してくれると信じている」と話している。
昨季までの3シーズンは度重なる故障に悩まされた。2018年オフには右肘靱帯を再建するトミー・ジョン手術、19年9月には左膝を手術した。左膝はすでに完治しているだろうし、トミー・ジョン手術から2年以上が経過して右肘の状態も万全に近いという。昨年は投手としての復帰を急いだことが裏目に出たが、リハビリに十分な時間を費やした今季はその心配もいらない。
アタマも万全だ。大谷は17日のバッテリー組キャンプインに備えて、早くも実戦を想定した練習に取り組んでいる。代理人のネズ・バレロ氏によれば、これまで以上にデータを重視するようになったという。
昨季はサイン盗みを防ぎ、密を避けるため、試合中、映像でのプレー確認を禁止された。昨季の大谷が打撃不振(打率.190、7本塁打、24打点)に陥ったのは、球種やコースを映像で再確認できなかったことも大きかった。しかし、今季は対戦相手の情報を可能な限り把握するつもりでいる。
■10億円以上になる可能性
体とアタマがベストの状態であれば、本格的な二刀流としてブレークしても不思議ではない。そんな期待と読みがGMをはじめとするエ軍フロントにはあるようなのだ。
「総額で9億円近い今回の契約はチームにとってはむしろ、安く抑えられたと思う。仮に大谷が二刀流としてフル回転したり、新人王を獲得した18年の成績(4勝2敗、防御率3.31、打率.285、22本塁打、61打点)を残せば、とてもじゃないが来季年俸は6億円では収まらない。年俸調停権があるだけに、1年目と同等の数字でも年俸は10億円以上に跳ね上がる可能性があります。エ軍は大谷が活躍するとソロバンをはじいて先手を打ったのでしょう」(友成氏)
大谷の状態を把握しているからこその“先物買い”というのだ。