<1>カール・ルイスとの契約放棄は人生最大の判断ミス
■ナイキ色が強すぎる
結論から言えば獲得には至らなかった。主な理由は以下の2点だった。
①ルイスはナイキのイメージが強すぎる。巨額な投資をしない限り、「アシックスのルイス」に変えることは容易ではない。
②ライバル会社のアディダスやプーマに話が行っても、同様の理由で契約は見送るだろう。
当然、役員会では、「なぜルイスを諦めるのか」「すぐ交渉するべきだ」という意見が出た。どちらに転ぶかわからないので、私は渡米の準備だけはしておいた。役員の採決の結果、僅差で「ルイス断念」が決まり、ダグラスに断りのファクスを送った。
大型商談は実らず、迎えた87年の世界陸上ローマ大会でのこと。
「え! まさか?」
■スタンドで見たスパイクに絶句
ルイスのスパイクを見た瞬間、私は言葉を失い、頭が真っ白になった。それはなんと、ミズノだった。「ルイス断念」の理由を役員に説明した時、私の頭に国内メーカーはこれっぽっちもなかった。ミズノはプロモーション活動では先駆者であり、かつては陸上スパイクでも人気を博していたが、当時はアシックスの方が、知名度もシェアも上。ライバル視していなかった。ルイスはこの大会でも2つ(※)の金メダルを手にした。