<2>契約合意に至らなかったB.ジョンソンがソウル五輪で金メダルもどんでん返しが
会社の指示に背き、スター選手との契約話は破談。社内で私への非難の声が上がったのは当然だった。
ジョンソンは88年ソウル五輪でも世界新記録の9秒79で金メダル。ルイスに引導を渡し、新時代の到来をアピールした。アシックスはこの大会のオフィシャルサプライヤーとして韓国内での「地位」を確固たるものにしたかった。
「これは辞職するしかないか……」
優勝を確信したジョンソンが右手を上げながらゴールするシーンを現場で見た私は、責任の取り方が頭に浮かんだものだ。
3日ぐらいしてからか、ジョンソンはレース後のドーピング検査でステロイド系の筋肉増強剤の使用が発覚。金メダルだけでなく、後に世界陸上ローマ大会までさかのぼって記録は取り消され、ルイスが逆転優勝となった。アシックスがジョンソンと契約していたら、どれほどブランドイメージが傷ついたことか。
契約はコストパフォーマンスを考慮しなければならないが、成績や人気だけを重視しているわけではない。カール・ルイスを逃した際は、「救世主」探しに必死になっていたことは否めないものの、本来なら、我々が求める企業イメージと選手の人間性が合致してこそ、両者は良好な関係を築ける。
現在、野球界では大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が日米のファンを虜にしている。彼の二刀流スパイクやバットにグラブなどはアシックス製だ。プレー以外の言動も注目されている大谷選手との契約は大ホームランである。(つづく)