<10>ロス五輪の競技直前、中村監督は瀬古利彦を迎えに帰国すると言い出した
そんなことを思って迎えたレース当日。瀬古は中盤まで先頭集団にいたが、35キロ手前からズルズル後退。14位に終わった。
その日の夜、中村さんに呼ばれた。
「瀬古たちを韓国選手権で走らせたい。帰国したらすぐにソウルに行く手配をしてくれ」
ソウルは次回の五輪開催都市であり、中村さんの生まれ故郷でもある(=日本統治時代の朝鮮京城)。瀬古が負けた当日、次の五輪に向けて動き出していることに驚いた。中村さんはその翌年、趣味の渓流釣りに出かけ不慮の事故で亡くなった。日本陸上界にとって大きな損失だった。 =つづく