10.19ダブルヘッダー第1試合 絶体絶命のピンチで打席に入った梨田昌孝さんとの思い出
「あーあ」
というタメ息に変わった。
右翼の岡部明一さんから矢のような好返球。本塁をつこうとした佐藤さんは慌てて三塁に戻ろうとするも、三本間で挟殺された。私の目の前でアウトになった。その間に鈴木さんは二塁へ進んだが、すでに2死。あとアウトひとつで優勝がなくなる。絶体絶命の局面で、仰木監督は代打に梨田昌孝さんを送った。
梨田さんはこの年限りでの引退が決まっていたベテラン捕手。私がプロ入り直後のサイパンキャンプで、最初にボールを受けてくれた。ブルペンの立ち投げ。制球には自信があったし、構えたところに投げられているという感触があるにはあった。
とはいえ、右も左も分からない新人だ。プロでどれだけやれるか何の手応えもないまま立ち投げを続けていると、いかにも球が手元で伸びているかのようなキャッチングをしてくれた。構えたミットにドンピシャで投げたときは、「おおっ!」「いいよ! いいぞ、いいぞ!」。気分的にこちらを乗せるようなキャッチングだった。
「あのキレとコントロールがあれば、結構、勝てるぞ」