怪物はもう出ない…佐々木朗希の登板回避問題が変えたもの「甲子園と令和の怪物」著者が語る
「現在は中学生が強豪校を品定めして進学先を決めている」
ひとりで投げ抜く「怪物」から、複数投手の起用へとシフトしている甲子園。「甲子園と令和の怪物」(小学館新書)の著者・柳川悠二氏も「高校野球は時代と共に変わりつつある」と言う。
──甲子園の戦い方も変わりますね。
「普通に考えれば主戦投手を複数揃え、常にフレッシュな状態で登板させた方が勝率は高まる。複数の投手で9回を分担して投げさせるような戦術眼が求められます。あるいは今年5月の春季近畿大会決勝で智弁和歌山が大阪桐蔭に勝った試合のように、タイプの違う投手を小刻みに継投させていくやり方もある。その意味では、投手交代の妙が今後の高校野球の見どころになるかもしれません」
──昔からエース級の投手が複数いたチームは強かった。
「1987年のPL学園(大阪)や2018年の大阪桐蔭は、いずれも春夏連覇を達成しています。ただ、今はそれがスタンダードになりつつあります。もちろん、展開によってはひとりのエースに頼らざるを得なくなるでしょう。大阪桐蔭の西谷監督も『状況次第では……』と話しています」
──暑さ対策や球児の故障防止など、去年の夏から休養日が1日増えた。高校野球も変化とは無縁でいられない。
「今後も休養日がさらに増えたり、ベンチ入りメンバーの数も増えるかもしれません。そうなると、また新たな変化が生まれるでしょう。さらに現在の1年生が3年生になる2年後は、低反発バット、いわゆる『飛ばない金属バット』が正式に導入予定です。間違いなく投手有利になりますよ」
──本書では中学生が進学先を選ぶ基準についても言及しています。
「甲子園に出場できるかも大事な基準ですが、昨今は学校ごとの育成方法に興味を持つ球児も多い。例えば、左腕の育成に定評があった迫田前監督がいた頃の広島新庄には、左腕の好投手が集まった。日本ハムに入団した堀瑞輝もそのひとりです」
──昔の高校野球は特待制度などが勧誘文句になっていましたが……。
「それは今もありますよ。特に遠方の学校に進学しようという子にとっては重要ですから。ただ、それも今は、あくまで判断材料のひとつ。進学の主導権を握っているのは学校ではなく中学生の方と言っても過言ではありません」