球界の寝業師こと根本陸夫さんに教わったスカウト術 「スピードガンよりも自分の目を信じろ」「タクシーには乗るな」
「僕がスカウトに就任した直後、他のスカウトには『こいつには好きにやらせるから、何も教えるな』と言うもんだから、何の仕事の手ほどきを受けることもなく、スカウトを始めたようなものでした。自分で高校や大学の監督の名前、ドラフト候補の住所や電話番号を調べて、連絡帳を作るところから始まりました。ただ、根本さんと顔を合わせたときは、『相手に出されたコーヒーは飲むな。タクシーには乗るな』といった人付き合いの仕方や『スピードガンよりも自分の目を信じろ』と選手の見方についても教えられました。僕は一人で行動することが多くて、一匹おおかみとよく言われましたが、上司にゴマをすったり、いわゆる処世術というのが苦手で(笑)。そんな私の性格に関して、『周りからゴマすりって言われようが、どんな形でも業界に残れるのは凄いもんだぜ』と言われたこともありました」
鈴木がスカウトになったころは、「巨人1強」の時代だった。
「当時は巨人が圧倒的な力があって、そこに対抗するために、根本さんはあの手この手を尽くした。清原や桑田の件で『二頭取り』を公言したのもそうですし、それを実現するために、アマチュアの監督はもちろん、親や恩師、地元の有力者など、さまざまな人脈を駆使して指名、入団にこぎつけた。西武は上位の指名だけでなく、松沼兄弟や工藤、秋山幸二といった逸材を下位やドラフト外で指名した。これが西武黄金時代につながったわけです。僕もいかにいい選手を下位やドラフト外で取るかに力を入れました」
根本流寝業でいえば、86年ドラフトで投手の森山良二(現ソフトバンクコーチ)を単独1位指名したことも印象深い。