なぜ阿部詩は号泣し、須崎優衣は嗚咽したのか…溢れ出る悲壮感はメダル連発スケボー選手と天地の差
面白いからやっているプレーヤー
敗者の周囲は重苦しい悲壮感に支配されたが、その点、この競技はまったく違った。
今大会でも男女4種目で金メダル2、銀メダル2を獲得したスケートボードである。勝っても負けても、涙はゼロ。悲壮感とは無縁の選手たちは、笑顔で「楽しかった」と口を揃える好対照だ。
作家の五木寛之氏は2021年東京五輪後の日刊ゲンダイ特別号で、<オリンピックに思う 近代五輪の終焉>と題してこう書いている。
<今回の東京五輪で何かが変ったと感じるのは、私だけだろうか><夏空に回転するスケートボードの少年少女たちの演技を見て、近代五輪は終ったと、はっきりそう思った><今回、女子ストリートで決勝に進んだ8人のうち5人が10代なのだ><彼らの技は偉大な指導者の熱血指導によって磨かれたのではない。遊び仲間同士の競い合いやアドバイスによって、向上を楽しみながら育ってきたのである><根性ではなく友情によって磨かれた技術なのだ。涙をこらえて必死で「楽しみます」と誓うのではなく、面白いからやっているプレイヤーたちなのだ>
五輪競技に初採用された東京大会で、3つの金を含む5個のメダルを獲得したスケートボード日本代表は、今大会でも男子ストリートの堀米雄斗(25)が連覇を達成し、女子パークの開心那(15)が2大会連続の銀メダルを獲得。女子ストリートでは、吉沢心(14)と赤間凛音(15)がワンツーフィニッシュの快挙を演じるなど躍進した。
「象徴的なシーンは、女子パーク決勝前です。出場選手が一列に並んで、選手紹介のコールを待つ間、草木ひなの(16)は流れる音楽に合わせて両隣の選手と一緒に踊っていた。金メダルを目指した開もカメラに向かって笑顔でポーズ。メダル獲得、それも金メダルが至上命題とされる柔道やレスリングとは競技の成り立ちや歴史が違うとはいえ、スケボーの彼ら彼女たちに話を聞くと、まずこの場を『楽しむ』というメンタリティーです。もちろん結果を求めて努力はしているが、目標は練習の成果を試合で披露することで、メダルはあくまでその結果。指導者も選手が大技を決めると一緒になって大喜びし、およそ根性論やスパルタとは無縁です。だからこそ、五輪の大舞台でも結果を出せるのでしょう」(スポーツライター)