【スポーツ科学で読み解く二刀流】 打者・大谷が備える「コンタクトしながら長打を放つ高等技術」
「自己最多54本塁打」は打球角度も関係
──対左投手の打率向上(23年.244、24年.288)も飛躍につながった。
「スイング速度は昨年から算出され始めた指標で過去と比較はできないのですが、昨年の対右投手、対左投手の打球速度を見てみると、対左の方がやや成績が悪い。右には155.9キロとかなり速い一方で、左には150.5キロ。5キロほど打球の速度が下がってしまう。ただ、23年の対左の打球速度からは3キロほどアップした。三振率も減っています。一般的に打率が上がると、確実にボールを捉えようとしてスイング速度は下がるものですが、大谷選手は確実にコンタクトできるようになり、さらに、ボールを遠くに飛ばす能力も身についた。しっかり振っているにもかかわらず、コンタクト率も改善した。非常に高い技術を持ち合わせています」
──自己最多の54本塁打をマークしたのは打球角度も関係している。
「昨年は16.0度で、21年よりは下がっているものの、それに次ぐ自身2番目。対左投手に関しては、過去最高の打球の角度になっている。対左投手のコンタクト率が上がったうえ、打球速度に加えて角度も出せるようになった。バットを下から出し、ボールの下側を叩かないと本塁打にはならない。空振りになりやすいというリスクがあるにもかかわらず、空振りせず、角度を出すということも、非常に高い技術が必要です」
──指名打者として打撃に専念できることも、好成績につながった。
「大谷選手はトラジェクトアークというピッチングマシンを使って打撃練習をしている。このマシンは、実際に投手が投げるボールの変化量、球速を設定できる。より実戦に近い形で練習ができます。守備につかない指名打者は、次の打席までの間に対策、準備をしやすい。もちろん、投手が交代した際にも対策は立てやすくなります」
──ドジャースのデータ分析力も下支えになっているとみている。
「配球の読みであったり、ドジャースは相手投手の分析が非常に進んでいる球団です。ドジャースに入団したことが、大谷選手の安定した成績を支えていると思います。報道にもありましたが、打席でバット1本分の距離を測り、自分の足の位置を確かにした。打者のちょっとしたフォームのズレや構えの違いなど、ドジャースはスポーツ科学を活用したサポートに対して非常に前向きな球団。大谷選手も球団の取り組みに後押しされたのではないかと思います」