「大関の消えた夏」須藤靖貴著
■黒人大関暗殺未遂事件の謎を解く斬新かつ独創的な相撲ミステリー
大相撲初の黒人大関・荒把米(あらばま)。アメフトで培われた資質に加え、独自の合理的な稽古が功を奏し、入門9年で大関に昇進。その後も活躍はめざましく、横綱昇進確実かと思われたが見送られてしまう。黒人を横綱にしたくないという勢力からさまざまな形でバッシングを受けていたのだ。
それでも初場所、春場所で優勝、準優勝を果たし、今度こそと臨んだ夏場所だが、途中格下相手にまさかの連敗。すると場所中にもかかわらず元兄弟子の経営する秩父のラーメン屋に逃亡。記者会見を開いた荒把米は賭博に関するある不正が行われているとの爆弾発言をする。その2日後、荒把米がライフルで狙撃されてしまう。危うく命を取り留めた大関は急きょ東京へ戻り、ラーメン屋で働く壮一郎の力を借りて犯人を捜す――。
大関暗殺未遂の謎を追いながら相撲界の暗部をあぶり出すという主旋律に対して、旧態依然の体質を逆手にとって奇抜な計画を仕掛ける荒把米のしたたかさが副旋律として描かれていく。2つの旋律が錯綜しながら最後思わぬ結末へと至る、斬新かつ独創的な相撲ミステリー。