地方の時代は本当に来るのか
「福井モデル」藤吉雅春著
■「地方の時代」というお題目が輝きを失って久しい。だが、ここに来ての再・地方ブーム。果たしてそれは本物か。
共働き率と合計特殊出生率(15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの)で全国平均を上回る北陸3県。いずれも幸福度・世帯収入ともに高い。
たとえばメガネの生産で世界に名を馳せた福井県鯖江市。本書によれば地元の人々は「日本でもっとも早く中国にやられた町です」と笑うという。格安メガネの大量流入に押しまくられたのだ。しかし鯖江は危機を逆手にとり、売れ行きデータを綿密に収集して逆に格安業者では手の出ない高品質化にかじを切った。これが功を奏し、鯖江は「最先端のデータシティー」に変貌を遂げたのだ。
地盤沈下しない地方都市には歴史的に裏づけられた「強い教育力」と、古くからの近隣共同体が保持する平等な「協働システム」がある。これが富の一極集中で覇権を誇る東京にはない地方ならではの強さの源泉となるわけだ。
週刊誌のルポライターとして長年の経験を積んだ著者によるいぶし銀のような地方再生の物語。「未来は地方から始まる」というサブタイトルが空念仏に聞こえない魅力を放っている。(文藝春秋1300円+税)