大衆を煽り自らも煽られながら熱狂を起こす弁舌家【ヒトラー】

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「ヒトラー演説」高田博行著

■今年は終戦70周年。それは欧米ではナチ帝国崩壊から70年目でもある。いまヒトラー・ブームが起こっているのはなぜか。

 カリスマ的な演説の名手と呼ばれるヒトラー。その熱狂を巻き起こす力の秘密はなにか。ドイツ語史を専門とする著者は残された録音や映像からそのレトリックを詳細に分析。ミュンヘンの一介の扇動政治家としてナチの前身にあたる組織を旗揚げしたときの最初の演説録音から総統として最後に地下壕でラジオ演説したときの録音までくわしく聞き、ヒトラー演説の傾向とその変化を解き明かす。

 反ユダヤ主義は最初からの明らかな論調の軸だったが、ミュンヘン一揆の首謀者として法廷で裁かれたときには持ち前の弁舌で検事らを説得し、首席検事からは「演説家として無類の才能」とまでたたえられて、一揆の失敗をむしろ勝利に変えてしまったという。

 その後、地位が上がるにつれてヒトラーの演説にはますます磨きがかかるが、1933年に当時新しかったラジオで首相の施政方針演説に臨んだときは、聴衆のいないスタジオでのしゃべりにとまどいを隠せなかったらしい。ヒトラーは大衆を煽り、その熱気で自らも煽られながら言葉の奔流を巻き起こす弁舌家だったのだろう。

(中央公論新社 880円+税)

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