大衆を煽り自らも煽られながら熱狂を起こす弁舌家【ヒトラー】
「ナチスと精神分析官」ジャック・エル=ハイ著、高里ひろ、桑名真弓訳
ナチス党の初期からヒトラーと意気投合し、総統の後継者とも目された国家元帥ヘルマン・ゲーリング。最後の最後になってヒトラーに謀反を疑われて軟禁状態となり、やがて米軍の捕虜になった。そのゲーリングらの面接に当たったのが米軍のダグラス・ケリー少佐。カリフォルニアの野心的な名家の血を引き、独特の療法を開発して名を上げた精神科医である。本書は彼らの関わりをたどった歴史ノンフィクション。ニュルンベルクで絞首刑の判決を侮辱として銃殺刑を望んだゲーリング。結局、秘匿した青酸カリで自殺するが、興味深いのは最後の3章。帰国後のケリーは持ち前のエネルギーで有名大学の犯罪学部教授、人気の講演家、さらに警察のコンサルタントとしても大活躍するが、結局、自身がプレッシャーに押しつぶされ、家族の前で青酸カリ自殺を遂げてしまう。医学と人間双方についての興味深いドキュメンタリーだ。
(KADOKAWA 2200円+税)