巨匠ヴィム・ヴェンダースの最新作「セバスチャン・サルガド」

公開日: 更新日:

 貧困や搾取や紛争などで苦しむ人々は、えてして世間から目を背けられる存在としてあつかわれるものだ。ところがそんな人々の姿を、文字通り「目の離せない」存在として描き出す写真家が、現在都内公開中のドキュメンタリー映画「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」の“主役”サルガドだ。

 彼の作風を集約するのは光と影のコントラストの強い独特のモノクローム画面。監督に当たったのは自身もモノクローム映画「ベルリン・天使の詩」で知られた巨匠ヴィム・ヴェンダースだが、地域紛争に巻き込まれて盲目となった北アフリカ遊牧民の女性のポートレートに強烈に惹かれたことが製作のきっかけだったという。

 他方、サルガドはしばしば途方もなく広くて高い視点から被写体を捉える雄渾な撮影術でも知られ、ブラジルの鉱山を撮った有名な作品は映画でも紹介される。さながらアリの群れのような人々の姿が、逆に彼らの強いられる過酷な労働を直感させる。彼の写真は醜悪な世界で苦しむ人々の姿を食い入るように見つめる自分自身を意識させるのだ。

 A・クラインマンほか「他者の苦しみへの責任」(みすず書房 3400円)は、「苦しみの映像」をジャーナリズムの商品として流通させる報道写真を冒頭で論じたアメリカの人類学者らの論文集。人道が商品に化ける瞬間を鋭くえぐり出している。〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  2. 2

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  3. 3

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  4. 4

    田中圭が『悪者』で永野芽郁“二股不倫”騒動はおしまいか? 家族を裏切った重い代償

  5. 5

    中森明菜が16年ぶりライブ復活! “昭和最高の歌姫”がSNSに飛び交う「別人説」を一蹴する日

  1. 6

    永野芽郁「二股不倫報道」の波紋…ベッキー&唐田えりかと同じ道をたどってしまうのか?

  2. 7

    レベル、人気の低下著しい国内男子ツアーの情けなさ…注目の前澤杯で女子プロの引き立て役に

  3. 8

    芳根京子《昭和新婚ラブコメ》はトップクラスの高評価!「話題性」「考察」なしの“スローなドラマ”が人気の背景

  4. 9

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  5. 10

    大阪万博会場は緊急避難時にパニック必至! 致命的デザイン欠陥で露呈した危機管理の脆弱さ