一冊で数倍楽しい短編アンソロジー文庫特集
「肉体の鎮魂歌(レクイエム)」増田俊也編
スポーツノンフィクションの分野で、歴代もっともクオリティーの高い作品は何かという視点から時代を経てもなお共感を呼ぶことができる不動の作品を、大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞した作家が選出。
肉体というはかない道具を駆使して人生の中の短い期間を疾走するスポーツというジャンルならではの、夢のような一瞬の華やかさと、そこからいつかはふるい落とされていく人間としての切なさが凝縮された作品群は圧倒的な力を持つ。
球界のスター・長嶋茂雄の陰で歴史に埋もれた2人の三塁手を描いた沢木耕太郎の「三人の三塁手」、1979年日本シリーズ第7戦での江夏の投球を追った山際淳司の「江夏の21球」、実直なボクシングでマイク・タイソンと戦い抜いたボクサーを描いた佐瀬稔の「アリを越えた男 イベンダー・ホリフィールド」など全10編。歴史の目撃者となったかつての若者の心にも、活字で追体験する今の若者の心にも共に火をつけてくれる熱きノンフィクション集だ。(新潮文庫 630円+税)