「自然と営み」日本風景写真協会著
ぶら下がった干し柿の朱色が山里に映える和歌山県かつらぎ町の晩秋や、愛媛と高知の県境にある「カルスト五段高原」の放牧など、さまざまな農山村の点景が収められているのだが、やはり田植えされたばかりの田んぼから稲刈り時期の黄金色に染まった田んぼまで、田園景色になぜか一層の郷愁を感じる。
中でも棚田の風景は、DNAに刻まれているのではなかろうかと思うほど魅せられる。千葉県鴨川市の「大山千枚田」をはじめ、海との珍しいコラボレーションを奏でる石川県輪島市の「白米千枚田」、愛知県新城市の「四谷の千枚田」など、季節によってさまざまな表情を見せる各地の棚田の風景に癒やされる。
さらに、瀬戸内海を望む庭で江戸時代から伝わる製法で作られる「小豆島そうめん」の作業風景や、昭和40年代に道路が開通するまで湖上交通が唯一の交通手段だった琵琶湖最北端の集落「滋賀県長浜市菅浦」、雪景色の中でそこだけは湧水によって光り輝く長野県の「安曇野わさび園」など。日本各地に今も残るとっておきの風景90作品を収録。
こうした風景に心が奪われるのは、先人たちが営々と築いてきたその途方もない労力の末にこうした景色が出来上がってきたことを、誰もが肌で感じているからだろう。