「風のかたみ」福永武彦著
信濃から都へ上る途中、連れとはぐれてしまった大伴の次郎信親は、迷い込んだ近江のススキの原で出会った陰陽師と古堂で一夜を過ごすことに。まもなく明かりに吸い寄せられるように、伊勢に向かう途中だという笛師の喜仁が加わる。夜中、次郎が気配に目を覚ますと、葬列が堂を目指して進んでくる。陰陽師の術による幻影と思われた。翌朝、目を覚ますと喜仁が消え、彼が伊勢の守に献上すると言っていた名笛が残されていた。陰陽師と別れ、都にたどり着いた次郎は、亡き叔母の縁故を頼り中納言の屋敷を訪ねる。叔母の忘れ形見の萩姫を恋慕する次郎だが、萩姫は一夜を契った安麻呂が忘れられずにいた。
王朝ロマン小説の名作の復刊。(河出書房新社 1100円+税)