「最後に正義は勝つ」と喜べないむなしさ
「新国立競技場 問題の真実」森本智之著
新国立競技場の新しい建設計画が発表されてから、森喜朗氏があからさまにB案に肩入れしたなど相変わらず周辺はかまびすしいが、一般の人たちはもうすっかりシラけているのではないだろうか。総工費は約1500億円だそうだが、「前のプランより1000億お得」とか言われてもピンとこない。だいたい本当に旧国立競技場を解体する必要があったのだろうか。
そのあたりのいきさつを東京新聞の記者が、今は風前の灯になりつつある“ジャーナリスト魂”で取材した渾身の一作が本書。全体の3分の2は、なぜ財政的にも現実的にも建設不可能なザハ・ハディド氏の案が採択されたのか、なぜ予算が膨大な額になったのか、なぜ異議を唱える市民団体や建築家の声が届かなかったのか、といったプロセスが細かく記されている。主な舞台は日本スポーツ振興センターだが、そこに無数の組織や個人の利権、思惑が絡んでおり、その身勝手さに正直言って読んでいるだけでイライラしてくる。
ところが、事態が大きく動き出すのは今年の5月。下村文科相(当時)が舛添都知事を訪ね、唐突に競技場の計画がピンチに陥っていることを明らかにしたのだ。それから計画見直しまでのドキュメントが後半3分の1で描かれているのだが、前半とのコントラストが鮮やかでまさに映画を見ているよう。東京新聞も取材体制を拡大し、まさに総力戦で生き生きと取材を進めている様子が手に取るようにわかる。そしてついに、安倍首相が白紙撤回を表明したのだ。