「虫樹音楽集」奥泉光著
30年前、高校生だった「私」は、先輩が出演するライブで、共演のサックス奏者・渡辺猪一郎、通称「イモナベ」から声をかけられる。私が持っていたカフカの「変身」の文庫本を見て、この本の書名は本来「変態」と訳すべきなのだと教えてくれたのだ。
数年後、私はイモナベが「孵化」と題したコンサートのステージで演奏中に全裸になったと耳にする。
さらに数年後、私は彼が「幼虫」と題したソロライブシリーズを行っていることを知り、彼がステージで裸になった理由が分かった気がして、ライブに足を運ぶ。孵化して幼虫になったイモナベは、変態のときをまっているようだった。(「川辺のザムザ」)
名作「カフカ」の世界観とジャズを融合させた連作短編集。(集英社 640円+税)