心の不思議と治癒しようとする体のたくましさ
「『病は気から』を科学する」ジョー・マーチャント著、服部由美訳
霊験あらたかな水や、薄めた砂糖水が原料のホメオパシーなど、巷にあふれる民間治療法がなくならないのはなぜだろう。
サイエンスライターの著者は、薬効のないプラセボ(にせ薬)などが、どのように人体の自己治癒力に働きかけ、臨床学的にも効果を上げているかに迫っている。さらに催眠術や、瞑想、ルルドの泉などの臨床例が次々と出てきて、面白い。
「まさか」というより、むしろ日ごろ感じていた「病は気から」が科学的に証明されて、「やはり」という気持ちになる。研究が進めば、副作用の大きい鎮痛剤の投与を減らすことができるかもしれないと期待を持つのと同時に、代替療法の限界も伝えていて、トンデモ本と一線を画している。
たとえば、高山病は、酸素の入っていないマスクをかけただけで、頭痛などの症状が緩和される場合があるという。しかし、これは体内の酸素が増えるわけではない。またプラセボは、「これはプラセボです」と説明を受けて投与されても、効果が期待できるという。
この分野は、製薬会社にとってあまり利益にならないため研究が遅れていたが、なんと治療にゲーム会社も参入してきている。戦場で大きなやけどを負った男性が、ゴーグルをつけて挑むのは、スノーワールドという仮想世界だ。そのゲームに参加することによって、患者の痛みのスコアが減少するというのだ。
そして介護者の親身な態度や、社会のつながり合い、逆境を挑戦に変える心の持ちようが、人の寿命や健康に影響することが科学的に証明されている。
これまで西洋医学で手つかずだった心の力が、今、研究により科学的に明らかになろうとしている。
読みながら実感するのは、心の不思議と、治癒しようとする体のたくましさである。非常に読みやすい本なので、ヘンな治療法でだまされそうな人にも、西洋医学一辺倒の石頭にもオススメの一冊だ。(講談社 3000円+税)