「ハーバードの人生が変わる東洋哲学」マイケル・ピュエットほか著、熊谷淳子訳
西洋社会が取り組んできた政治社会思想は、ベルリンの壁崩壊後に新自由主義へとたどり着いた。しかし現実には、貧富の格差は拡大し、不満を抱える人たちが増えている。幸福と繁栄のために理性に頼るように教えてきたが、果たして本当にそうなのか。マイケル・ピュエット教授は、そう問いかける。ハーバード大学の中国哲学の講座で繰り広げられるこうした同教授の講義には、学生が殺到しているという。
有名なトロッコ問題(暴走したトロッコの線路上に5人おり、ポイントを切り替えれば5人を助けられるが、別の線路上にいる1人を殺すことになる時どうするか)のような問題設定を中国哲学は行わない。とっさのときにどう動くかは理性だけでは到底答えを出せないからだ。
日々の行動に目を向け、出来事に対して礼をもって反応するよう鍛錬することを説いた孔子や、勤勉や合理的な意思決定が報われるとは限らないことを指摘した孟子らの教えを紹介しながら、ピュエット教授は従来の西洋哲学の盲点を突く。
米国のエリートを魅了する講義がどのようなものなのか、本書を通して知ることができる。(早川書房 1600円+税)