「神奈備」馳星周氏

公開日: 更新日:

 登場人物は、実質このふたり。悪天候の山へ深く進むにつれ、ふたりの心理背景や人生観も深く濃密にさらけ出されていく。

「下界の余計なものを入れたくなかった。登山で疲れてくると、自分の中の夾雑物がなくなっていくんですよね。ただ、こすっからい計算はなくて、実は何も考えずに書いていたりもします。後で読むと、『俺、こんなこと書いたっけ?』と思うこともよくあります(笑い)」

 潤と孝は、現代社会の切実感を切り取ったような存在でもある。毒親と貧困、独身中年男の孤独感と惑い。人物にリアリティーがあるだけではない。予測不能な自然災害に対する憂いと教訓も、今の時代につながるものがある。

「東日本大震災も、御嶽山噴火も、熊本大地震も、人間は忘れてしまう。福島の原発事故だって終わっていないのに。しかも現政権は自然災害だけでなく、戦争のことすら忘れて、なかったことにしようとしている。都合よく忘れて、すぐにバレる嘘をつくのは、現政権の得意技だけどね」

 想像を絶する結末は読み手を裏切るというべきか、あるいは心の底に波紋を広げるというべきか。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット