だからウォールストリートはトランプを支持しているのか
「トランプ政権で日本経済はこうなる」熊谷亮丸+大和総研編著 日本経済新聞出版社 2016年12月
トランプ大統領の下での米国経済を予測した興味深い作品だ。
〈「ドッド・フランク法(金融規制改革法)を廃止する!」/トランプの選挙公約が、米国の金融規制強化の流れに「待った」をかけた。/(中略)トランプ勝利の裏に金融規制に対する彼の戦略が隠されていたこと、を指摘しておきたい。/当然、米国を揺るがすほどの威力を持つ金融規制の影響は、日本の金融市場まで伝播する。例えば、トランプの勝利後に米国と日本の株式市湯では金融株の上昇が目立った。この背景の1つに、「ドッド・フランク法を廃止する」というトランプの公約があると考えられる。〉
ウォールストリートの投資家たちは製造業を重視するトランプに忌避反応を示している、という印象を報道を通じて日本人は受けていたが、実態は異なっていた。リーマン・ショック後、米国では金融規制強化の流れが強まり、その結果、金融機関の収益性が低下していた。もし、トランプ政権が金融規制を緩和すれば、金融機関の収益力が高まる。それだから金融機関はトランプを支持しているのだ。
しかし、トランプ大統領が規制緩和論であるという見方は間違っていると熊谷氏らは見る。
〈結論を先に述べると、トランプは、金融規制に関して「アメ(緩和)」と「ムチ(強化)」を使い分けている。「アメ」は、「ドッド・フランク法(金融規制改革法)の廃止」、「ムチ」は、「グラス・スティーガル法(証券と銀行の分離などを定めた規制法)の復活」である。/トランプの「アメ」と「ムチ」による巧みな戦術をしっかり見極めなければ、米国の金融規制のゆくえを占うことはできない。〉
評者には、トランプ大統領が「アメ」と「ムチ」の金融政策を巧みに使い分けているというようには見えない。客観性、実証性を軽視もしくは無視して、自らが欲するように世界を理解するという反知性主義をトランプ大統領は、経済政策においても適用しているように思えてならない。米ドルは基軸通貨なので、トランプ大統領のアクセルとブレーキを同時に踏むような金融政策によって、日本経済もかなり翻弄されそうだ。★★★(選者・佐藤優)