【難民問題】 欧州をはじめ世界を揺るがす難民問題に迫る
「あやつられる難民」米川正子著
南アの大学に学んだあと、国連ボランティアとして世界の紛争地等で働いた著者。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の職員としてルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国で難民の保護・支援や政策立案に関わった。つまり筋金入りの現場人だ。本書は難民問題に関する入門書だが、著者自身の体験や反省もしばしば語られる。
たとえばUNHCRは難民支援のためにすぐにキャンプを立ち上げようとするが、本当に正しい対応なのか。キャンプは収容所だが、国際支援のパンフレット類には、まるでリゾートホテルの紹介のような文言や写真が並んで誤解をかきたてる。さらに国連やNGO団体の職員には難民に「上から目線」でしか応対しない者や国際機関における自分のキャリアのために難民を利用する者もいるという。
自身が内部に身を置いた著者であり、過去の仕事に対しても自己批判を絶やさない。「私は国際社会が大嫌いだ」と書いた元難民もいる現実。「かわいそう」と表面的な同情だけではすまない過酷な世界の現実を見据えるのに役立つ。著者は現在、立教大学特任准教授として若い世代の指導に当たる。(筑摩書房 940円+税)