訪れる人を癒しつづけた図書館に住む猫
「図書館ねこデューイ」ヴィッキー・マイロン著、羽田詩津子訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫 760円+税
【話題】10年前、和歌山県の私鉄の駅長に三毛猫が就任し話題を呼び、町おこしに一役買った。本書は、駅ならぬ図書館のマスコットとして町の活性化を促したトラ猫の話。
【あらすじ】1988年1月18日の冷え込みの強い朝、米国アイオワ州の北西部にある町スペンサーの公共図書館の副館長ヴィッキーは、返却ボックスから音がするのに気づいた。開けてみると、生後間もない子猫が寒さに震えていた。すぐにお湯につからせて一命を取り留めたところで、同僚に、これからどうするのかときかれて、彼女は答えた。
「たぶん、ここで飼えるんじゃないかしら」 図書館猫の誕生である。
名前はデューイ・リードモア・ブックス。「デューイ10進分類法」と「もっと本を読む」という、いかにも図書館らしい名前をもらったこの猫は天性の人懐っこさで、たちまち来館者の評判となる。それまで声を発したことのなかった重度障害児のクリスタルがデューイに触るとうれしそうに声を上げるなど、誰もがデューイに心を癒やされた。その話題は全米に広まり、農業危機で沈滞していた町に生気を蘇らせた。しかし、デューイによって救われたのは他ならぬヴィッキー自身だった。
出産の際、産科医の不手際で卵巣と子宮を摘出、その後、アルコール依存症の夫と離婚、シングルマザーとして娘を育てながら大学に通い、図書館に職を得る。それも束の間、1年の間に弟と兄を相次いで亡くし、自らも乳がんで両方の乳房を失うという悲劇に見舞われた彼女にとって、デューイは何よりの心の支えであった――。
【読みどころ】デューイは2006年11月、18歳で天寿を全うした。その1年後、ヴィッキーは25年勤めた図書館を退職、そしてたくさんの人から勧められて書いたのが本書である。〈石〉