読めば読むほど著者が嫌いになる不思議な良書
「都知事失格」舛添要一著/小学館/1300円+税
公用車、会議費、別荘通い、ファーストクラス・スイートルーム利用などで昨年大バッシングをくらった舛添要一前東京都知事の告白本だが、とにかく面白い。日本中に広がった舛添バッシングを「サーカス(見せ物・娯楽)」と称し、恨みつらみを徹底的に述べる。舛添氏自身は頭は良いだけに論理的に説明し、「なるほど、そういった事情があったのか」と思わせる。ファーストクラス使用についてはこう説明する。
〈座席を格下げし、旅費をわずかばかり節約したとしても先方との交渉で失敗したのでは、かえって税金の無駄遣いである〉
弁が立つだけに、一瞬同情しかけそうになるものの、突然自慢や他人への攻撃がその後入り、その同情心が失われるという、まさに「自爆テロ回顧録」である。具体的な自慢をするにあたり、まず青島幸男、石原慎太郎、猪瀬直樹がいかに仕事をしなかったかを糾弾し、「東京都知事で北京とソウルに行ったのは18年ぶり」「美術にここまで詳しい政治家はめったにいない」と自らを誇るのだ。
猪瀬氏に対する記述はまさに悪口における白眉である。2012年、猪瀬氏が勝利する都知事選の演説の際、猪瀬氏が場所をなかなか譲らず、さらに舛添氏の演説の際、猪瀬氏のウグイス嬢が大音響でがなり立てたことについてこう述べる。
「選挙のルールも知らない失礼で傲慢な男だと不快に思ったものである」
「1年後、この失礼な男の後任に自分が選ばれるなどとは、そのときは、もちろん思いもしなかった」
この本を読んで何かに似ているぞ……と思ったのだが、STAP細胞で知られる小保方晴子氏の告白本「あの日」である。あの本でも、小保方氏は自らの正当性と頑張りを主張するとともに、所属した理研や共同研究者の若山照彦氏を徹底的に悪者扱いした。あの本はまさに「登場人物ほぼ悪人」といった形だが、構造が似ているのである。小保方氏の書籍では、ハーバード時代の同僚と家族が善人、舛添氏の場合は朴槿恵氏を含めた外国人は皆善人で「マスコミをはじめとした日本のポピュリズム」を敵と認定しているところも似ている。
本文の最後で「衆愚政治のツケは、都民が払う」と書き、小池百合子氏に投票した都民を見下すが、あなたももともとはテレビ芸人だから政治家になれたわけでしょうよ。読めば読むほど舛添氏が嫌いになる不思議な良書である。
★★★(選者・中川淳一郎)