「アキラとあきら」池井戸潤著
10年前、雑誌に連載されたまま書籍化されずにいた幻の長編がいきなり文庫になって登場である。
10年も本にならなかったのは何か欠陥があるんじゃないの、とひねくれた人なら思うかもしれないが(すみません、私がそう思いました)、とんでもない。一気読みの面白さで、最後には目頭が熱くなった。ベストセラー作家はさすがにうまい。
零細工場の息子・山崎瑛と、大手海運会社の御曹司・階堂彬の、若き日を描く前半も読ませるが、やはり本書の読みどころは同じ銀行に入ってからの後半だろう。特に圧巻は、東海郵船の融資案件についての稟議書を瑛が上司に説明するラストだ。銀行は何のためにあるのか、という瑛の問いがここで一気に浮上する。
池井戸潤の小説ではこれまで、大企業の横暴や、銀行の冷淡な応対など、現実の過酷な側面がきわめてリアルに描かれてきた。そういう厳しい面が向こう側にあるからこそ、こちら側の人間たちの努力が光り輝く――とのドラマが少なくなかった。
ところが今回は、銀行は人を救うことが出来る、ビジネスとしてそれが可能であるとの真実にスポットライトを当てるのである。それは理想論かもしれないが、それもまた一つの真実なのだ。痛快極まりないのはそのためである。なお本書は今年の7月、向井理と斎藤工の主演でWOWOWにて放送(全9話)される予定で、そちらも楽しみだ。(徳間書店 1000円+税)