側近の相次ぐ更迭や辞任で先行き暗雲といわれるトランプ政権。しかしそれは本当か?

公開日: 更新日:

「トランプのアメリカ」朝日新聞アメリカ大統領選取材班

 トランプの大統領選勝利の直後から準備された新聞連載の単行本化。大方の主流派マスコミの観測を裏切ったトランプ勝利の勝因分析からその背後にあるアメリカ社会の分断状況まで、トランプの行く手に暗雲垂れ込めるいまだからこそ興味深い話題や指摘も多い。

 たとえば12年前、「トランプ大学」のウェブサイトで本人に成り代わってコラムを1年間連載したというコピーライターは、ゴーストライターの秘訣を「言いたいことを我慢せず全部言ってしまう」「シンプルなフレーズを繰り返す」ことだという。だからヒラリーの真似よりもトランプのほうがずっとたやすい。つまりそれだけ大衆感覚にマッチするわけだ。

 だが、「我慢しない直言」はボロボロと矛盾も露呈し、その都度見苦しい弁明と厚顔無恥をも余儀なくさせる。それに耐えるのは、まともな知性にはかえって難しいことなのだ。

 また今回の選挙は「世論調査の失敗」を印象づけたが、ネット世論の分析で有名なサイト「538」はクリントン優位を伝えつつもトランプ勝利の確率を15%程度とし、「ロシアンルーレットで実弾に当たるくらいの可能性」で、決して低くはないことを指摘していたという。政権の行く手はまだ見えない。

 (朝日新聞出版 1600円+税)

「世界を揺るがすトランプイズム」 池上彰著

 おなじみの池上解説。昨年の大統領選の幕開けから、著者自身「トランプは生き残れない」とみていた。しかし他の16人の共和党候補が互いに潰し合いを演じ、その陰でトランプ一人が無傷なまま。そこでトランプの猛攻が始まったのだ。

 テレビ経験豊かな著者はトランプが「テレビというメディアをよく知っている」という。特に他の候補の印象を悪くする術は抜群。だが他の残った候補が最悪なのも勝利の陰の一因だった。特に最後までトランプと争ったテッド・クルーズは右翼丸出しで、演説会を聴いた著者は「聴いていて怖くなりました」という。「クルーズが大統領になるぐらいなら、トランプのほうがまだマシだと、そんな気になってきました」。こういう心情もまたトランプを支える要素となったのだ。

 (ホーム社 1300円+税)

「トランプの黒幕」 渡瀬裕哉著

 米共和党保守派と関係が深く、右派団体Tokyo Tea Party(トーキョー・ティーパーティー)を主宰する著者はトランプにまつわる日本人の誤解を列挙する。たとえばトランプ支持者を「白人・低学歴・低所得・不満を抱えた男性ブルーカラー」と決めつけるのはリベラル派のゆがんだ見方。トランプはもと民主党員で派手なニューヨーカー。伝統的保守派との親和性は低く、特にティーパーティー運動の支持者は否定的。だが、ヒラリーにみすみす勝利させるわけにはいかなかったのだ。

 またケインズ主義的な規制策を順守する安倍政権を「保守」とする見方は的外れで、欧米の新自由主義的保守派からは失笑されているという。トランプ・安倍のゴルフ会談も成果上々と持ち上げるのは早計。対北朝鮮問題で「100%あなた方(日本)の後ろに立つ」とのトランプ発言も「横に立つわけではない」と見るべきだと釘を刺している。

 (祥伝社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出