「タツノオトシゴ図鑑」サラ・ローリー著、曽我部篤訳
可愛い系や獰猛系、そして不思議ちゃんなど、何でもありの海の生物の中でもひときわ異彩を放つタツノオトシゴの図鑑。
細く伸びたおちょぼ口にぽっこりお腹、そしてくるくる巻いた尾っぽという奇妙な顔立ちと体形、さらには直立での遊泳と、何から何まで魚のイメージからかけ離れたタツノオトシゴは、かつては海の昆虫と考えられていたこともあるそうだ。
他の魚と同じくエラやヒレ、浮袋をもつ一方で、他の魚にはないさまざまな特徴を持つタツノオトシゴ。その最たるものは、雄が抱卵することだ。雄にはコアラやカンガルーのように子育てをするための袋「育児嚢」があり、雌はその育児嚢に卵を産み付けるだけで、それ以上の世話はしないという。受精した胚は外で生きていける準備が整うまで育児嚢の中で成長していくというから、まさにタツノオトシゴは究極のイクメンでもあるのだ。
一方でタツノオトシゴは何かに擬態することで捕食者の目から逃れる。黒から蛍光色の橙色まで数時間から数日ほどで周囲の環境に馴染むように体色を変化させることもできる。中でも「バーギバントシーホース」は、生息場所の八放サンゴのポプリ(固着部分)に完璧に擬態する。発見時も、そうと知らずに水族館に持ち帰った八放サンゴについていたため偶然見つけることができたという。
その他、体の各部の形態から、特定の異性とパートナーシップを結ぶという繁殖、さらに漢方薬や魔よけとして使われている事実など。学術、文化などさまざまな視点から解説。もちろん全42種に加え近縁種15種も、美しい写真とともに最新の研究成果を踏まえ紹介。
専門的知識も網羅しているが、写真を眺めているだけでも癒やされ、知れば知るほど親近感がわいてくる。
(丸善出版 2800円+税)