「バルス」楡周平著
有名私大の4年生、百瀬陽一は狙っていた大手8社すべて最終面接ではねられてしまう。大企業を諦めきれない陽一は就職留年を決意。就職戦線が始まるまでの間、ネット通販会社スロットの流通センターでバイトをすることにした。
そこで陽一が目にしたのは、厳しいノルマ、安い時給、いつ解雇されるかわからない不安定な環境……派遣労働者の過酷な現実だった。
派遣を代替可能な労働ロボットとみなすスロットに対して、陽一は激しい怒りを感じる。その怒りに呼応するように、「バルス」と名乗る人物がネット通販の大動脈である宅配網にテロを仕掛けた。このテロによって宅配会社は荷物の受け付けを中止し、国内流通は大混乱に陥る。
さらに非正規労働者の待遇改善を訴える「バルス」に多くの人が賛同し、国会を巻き込む大きな運動に盛り上がっていく――。
配送料無料、即日配達といった現代社会の便利さが、実は非正規労働者の過酷な労働環境の上に成り立っていることを暴き出した問題作。
(講談社 1650円+税)