「働き方」が問われている。低成長・低人口の時代の正しい働き方とは何か。
「産業医が見る過労自殺企業の内側」大室正志著
産業医というと、会社の保健室にいる老先生のイメージか。しかし本書の著者は今年39歳。産業医科大在学中から産業医か精神科医を希望したという筋金入りだ。
30歳で外資系大企業の統括産業医という立場に就任。これまでに50社以上の産業医を務めたという。高度成長期以後の世代だけに、いまどきの新入社員の心理に通じていることが分かる。
例えば、新入社員の耐性の低さは上司には驚きの的だが、実は、家族主義的な日本企業の横並び社風は若者には自発的な「裁量権」を奪われた感覚があり、これがストレスのもとになる。「電通過労死事件」の場合も、残業当たり前の環境で東大卒の秀才女性が「男子校ノリ」を求められ、過剰に、素直に適応しようと、無理に無理を重ねた可能性があるという。
また、近ごろの若者は自由も欲しいが、完全な放任も怖がる。そのさじ加減が大事なのだ。電通では91年にも男性新入社員がストレスから自殺している。同社はその後、新社屋完成時にワンフロア丸ごと使って「健康管理センター」を新設した。だが、それはいわば“ハコモノ行政”のようなハード面だけの世間向けアナウンスだったのではないか、と。
軍医をルーツとする産業医は、いまや「医療版顧問弁護士」のような立場という説明が興味深い。(集英社 720円+税)
「労基署がやってきた!」森井博子著
1977年に旧労働省に入省。以来、30年以上にわたって各地の労基署の現場を歩いて独立した著者。これまでは、実務家・専門家向けの労働法務書を書いてきたが、本書では監督官の立場から見た現場の労務の実態を披露する。
主な仕事は、法令に基づいて事業所に立ち入る「臨検監督」、死亡事故など重篤な労災が発生した場合の「災害調査」、事業主の重大な違反の際には司法警察員としても働く「司法処分」。08年からは新人事制度で「安全衛生業務」と「労災補償業務」も監督官の仕事になった。プレス機の事故を頻発させていた工場で、経営者の息子が指3本も落とす事故に遭った話。ラブホの給料未払いで相談を受けた女性が、その後、個人加盟組合の専従として働くようになった話など、いろいろな人情譚もまじえつつ、企業の労務管理者にも有益な教訓を数々与えてくれる。(宝島社 800円+税)
「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」白河桃子著
近ごろの過労死ばやりで、すっかりビビった上司が部下にひたすら「早く帰れ」を連呼。少子化問題に詳しいジャーナリストの著者は、この例を「ダメな改革」とバッサリ。悪名高い電通過労死事件のほかにも、働き方改革の転換点となる出来事があったという。
ひとつはこれまで土日や遅番出勤を免除されてきたワーキングマザーへの対応を変えた「資生堂ショック」。典型的な女性の職場だが、「女性に優しいだけ」では限界がある。女性社員の夫たちにも働き方改革を迫ったのだ。もうひとつが「ヤマト運輸ショック」。Amazonの躍進を足元で支えたのは未払い残業と社員のガンバリだったという、笑えない現実がそこにある。ほかにも新聞社やテレビ局の女性記者たちの悲哀や「実力主義一辺倒の職場は破綻する」など鋭い指摘が多数。(PHP研究所 880円+税)