「ジェラシー」草凪優氏

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 吸いつくような餅肌、豊満な乳房にくびれた腰、発情時の甘い匂いを放ち、艶っぽい雰囲気で男のリズムに合わせて動く。そんな高性能のセックス・アンドロイドがいたら……。

 男の夢と欲望を凝縮した、近未来を描く小説が登場した。希代の官能作家が、構想と執筆に3年かけて挑んだラブサスペンスだ。

「車、麻薬、暴力、セックス。小説としては男子が好きなアイテム満載で、『週刊大衆』並みですよ(笑い)。ただ、僕はこれほどフェミニンな小説はないと思っています。今回はエンターテインメントなので、官能小説では描けないことを描きました」

 舞台は近未来の東京。日本はバブル崩壊後、右肩下がりを続けて没落。都市はスラム化し、無気力な日本人は廃虚に不法定住。国は少子高齢化も競争力低下も防げず、ポリシーのない外交&防衛政策で世界から見放されている。

「今は、戦前を描く小説が多いでしょう? 過去よりも未来をどう生き延びるかの方が興味があるし、ディストピアでも楽しくたくましく生きる人を描きたい。社会背景は極端に絶望的に描いたつもりですが、読んだ人からは『日本は確実にこうなるだろうね』と言われました。そんな荒廃した世界でも愛を探して生きていけば幸せだと思う。今回の主題は新しい形の愛。ちょっと恥ずかしいけど、僕はやっぱり愛を探しているんですよ(笑い)」

 エロスとバイオレンスは山盛りだが、テーマは愛。セックス・アンドロイドを描いているが、人間の本質を突く、愛と憎悪と嫉妬の物語なのだ。

「僕自身はセックス・アンドロイドには惹かれない。一回試してもいいとは思うけど、やっぱり完璧なモノはかえって面白くない。実際にできたら一瞬、流行るでしょうけどね。でも、主人公のように『これじゃない』と気づく人がたくさんいるんじゃないかな」

 主人公・波崎清春は32歳、元デリヘル店経営者だ。その手腕を見込まれ、セックス・アンドロイド「オンリー」を使ったビジネスを持ち掛けられる。仕掛け人は容姿端麗な才女・上里冬華。実は清春の元恋人・千夏の妹だ。清春の双子の弟で、引きこもりの純秋も誘い、共同ビジネスが始まる。精巧なオンリーは話題となり、商売は順風満帆。

 一方で、冬華の好戦的なビジネスは世間の風当たりも強く、テロや暴動の標的となってしまう。

「セックス・アンドロイドを描く上では、女性への冒涜という批判もあるし、途中まではちょっとミソジニー(女性嫌悪)なんですよ。でも最後まで読んでもらえたら、僕が今回挑戦した『男根主義を一回置いてみる』もわかっていただけるかと。愛を考えるときに、男根というか、男性的なものを捨てることで見える景色があると思うんですよね。結局、愛だけでは苦しいし、欲望もあるし、欲望を満たせば依存がついてくる。新しい形の愛を考えたとき、男根主義が邪魔だったんですよ」

 官能小説家としては衝撃発言でもある。新境地を切り開く覚悟だが、培ってきた世界を大切に育てたいという矜持も強い。

「僕自身は官能小説というジャンルに支えられていると思っています。官能作品は評判も数字もいいけれど、この本が一般文芸と並ぶと苦戦する。いかにジャンルが僕を支えてくれているかと思うと、そう簡単には裏切れません。寄せられている期待は守りつつも、新たな挑戦は続けたいんです。ただ、違う世界を描いたつもりでも、登場する女性が才色兼備のこじらせ女子と天真爛漫な売春婦。結局はいつものメンバー、草凪優一座でお送りしているんだけどね(笑い)」

(実業之日本社 1600円+税)

▽くさなぎ・ゆう 1967年、東京都生まれ。日本大学芸術学部中退。脚本家を経て2004年に官能作家としてデビュー。読者の期待を常に超えるエロスを描き、官能小説界を牽引。「どうしようもない恋の唄」は今夏、映画化&DVD化。本作は通算167冊目の著作で、官能小説ではない単行本としては、「黒闇」に続く第2弾となる。

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