著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「お願いおむらいす」中澤日菜子著

公開日: 更新日:

 年に2回、春と秋に東京郊外の広大な公園の一角を借りて開かれる「あらゆる食のお祭り」、通称「ぐるフェス」を舞台にした連作集である。冒頭の一編は、主催者の話。とはいっても、「ぐるフェス」事業部に配属された新入社員の話である。

 浜口太一24歳は売れないギタリストだったが、5歳年上の綾香の妊娠をきっかけに、ロック系雑誌の出版やイベントを主催している業界の老舗に就職する。「音楽業界に身を置く」ことに変わりはないと自分に言い聞かせるのだが、配属されたのは「ロックフェス事業部」ではなく、「ぐるフェス事業部」だったというわけ。音楽業界の老舗がまさかグルメイベントをやっているとは知らなかったのだ。というわけで、いきなりその会場に連れてこられるが、揉め事の連続に東奔西走。雨は降ってくるし、この仕事は絶対に自分に向かないと思うし、さあ、どうする太一、という短編だ。

 対照的な人生を歩む姉妹を描くものもあれば、曲がり角のアイドルなどが語り手となるものもあり、さらには、中堅の家電メーカーをリストラされ、再就職もうまくいかず、この「ぐるフェス」をはじめ、いくつかのアルバイトを転々として生活費を稼いでいる男を描く短編まである。若者から初老まで幅広い作品集なのである。みんな負けるな、と声援を送りたくなってくるのは、この連作集の力だろう。おすすめだ。

 (小学館 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    八角理事長が明かした3大関のそれぞれの課題とは? 豊昇龍3敗目で今場所の綱とりほぼ絶望的

  2. 2

    フジテレビにジャニーズの呪縛…フジ・メディアHD金光修社長の元妻は旧ジャニーズ取締役というズブズブの関係

  3. 3

    元DeNAバウアーやらかし炎上した不謹慎投稿の中身…たびたびの“舌禍”で日米ともにソッポ?

  4. 4

    松本人志は「女性トラブル」で中居正広の相談に乗るも…電撃引退にショック隠しきれず復帰に悪影響

  5. 5

    ついに不動産バブル終焉か…「住宅ローン」金利上昇で中古マンションの価格下落が始まる

  1. 6

    フジテレビ顧問弁護士・菊間千乃氏に何が?「羽鳥慎一モーニングショー」急きょ出演取りやめの波紋

  2. 7

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  3. 8

    菊間千乃は元女子アナ勝ち組No.1! フジテレビ退社→弁護士→4社で社外取締役の波瀾万丈

  4. 9

    中居正広「引退」で再注目…フジテレビ発アイドルグループ元メンバーが告発した大物芸能人から《性被害》の投稿の真偽

  5. 10

    中居正広「華麗なる女性遍歴」とその裏にあるTV局との蜜月…ネットには「ジャニーさんの亡霊」の声も