「から揚げの秘密」石井睦美著
食品会社に就職した樋口まりあ(通称ひぐま)を主人公にした連作集のパート2である。前作の「ひぐまのキッチン」も読ませたが、今回も快調だ。
樋口まりあは社長秘書として採用されるのだが、その重要な仕事のひとつに、社長に面会に来る客に、必要に応じて昼食を作って出すということがある。
食品会社という性格上、社内に大きなキッチンがあり(総勢30人が余裕で入れるほど大きいので、年に2度の社員慰労会は、ここで行われる)、シンク横には大きな鉄板まである。
ただし、社長に面会に来る客は、それぞれの道のプロでもあるので、提供するのが何でもいいというわけではない。少しは感心してもらいたいので、そのたびにまりあは頭を痛めることになる。
たとえば、第4話「冷し葛うどんにあったか赤飯」は、日本一の葛の産地である鹿児島で葛粉を作っている会社の人がやってくるので昼食を用意する話だが、意外な展開になるのがキモ。食というものがその人の人生と切り離せないものであることを示す挿話だが、目先だけの話で終わらず、こういう広がりを持つのもこの連作集の強みといっていい。お仕事小説は花盛りで、特に「食」に関する小説は多いけれど、これは強力な一冊だ。
シリーズ第2作とはいっても、内容的に続いているわけではないので、安心して手に取られたい。
(中央公論新社 680円+税)