郊外再生のヒントとなる知られざる街の歴史
人口減少が進む東京郊外。再び活気を取り戻させる方法は、駅前にタワーマンションを建てることではなく、どこかに似せた街につくり替えることでもない。それぞれが独自の個性と魅力を持った街として生まれ変わることが必要だと説くのが、三浦展著「娯楽する郊外」(柏書房 2200円+税)である。
かつての郊外は単なる東京の住宅地ではなく、固有の産業や文化が根付いていた。本書では、郊外の隠れた歴史を深掘りしながら、現代の街づくりに生かせる魅力に迫っている。
大学が都心に戻り、百貨店の撤退が相次ぐなど、人口減少が進む八王子だが、近年、新たな街づくりに貢献しているのが、花街で栄えた歴史だ。八王子は江戸時代以来の絹の産地であり、明治以降は織物の街としても名を馳せた。反物や着物、ハンカチーフなどが海外にも輸出され、外貨を稼いだ。大正時代には生活のモダン化に合わせて日本一のネクタイ産地となり、羽振りのいい織物業者が増え、夜ごと料亭で芸者を呼び、遊んだ歴史がある。
芸者衆は1990年代までに14人にまで減少してしまったが、2014年からは祇園の「都をどり」のように芸者が踊りを披露する「八王子おどり」を開催。地元の行事にも積極的に参加し、技芸を披露している。また彼女たちは、商店街に柳を植え、「和」と「レトロ」をコンセプトとした街の雰囲気づくりにも尽力。さらには商工会議所や住民も協力し、花街文化の伝承や情報発信も行いながら、花街を核とした街づくりを進めているという。
大正時代には歌舞伎座があった所沢、競馬場とゴルフ場で宝塚を目指した柏など、住宅地になる前の郊外の歴史をひもとく本書。郊外散歩のお供としてもお薦めだ。
(岩波書店 2400円+税)