一癖二癖もある!?ブックガイド本特集
「芥川賞ぜんぶ読む」菊池良著
間もなく秋の読書週間(10月27日~11月9日)ということで、今週は本を紹介する本、つまりブックガイドを特集する。しかし、ここに並ぶのは類書とは一線を画し、一癖も二癖もあるものばかり。本を紹介する本を読むこと自体がステキな読書体験になること間違いなし。
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日本で最も歴史と権威のある文学新人賞「芥川賞」。昭和10年の第1回から平成最後の第160回まで受賞者は169人。その受賞対象作品180タイトルすべてを読破した著者による全作品ガイドだ。
純文学を対象とする芥川賞と大衆文芸が対象の直木賞は、作家で出版社の社長だった菊池寛が前年に亡くなった友人の作家・直木三十五を記念して創設。その栄えある第1回の受賞作は、国策で日本からブラジルへと移民する人々の人間模様を描いた石川達三の「蒼氓」だった。
移民の受け入れが議論される現代の読者にはピンとこないかもしれないが、「当時これが評価されたということを、芥川賞は記録している。芥川賞の存在価値はそこにある」と著者はいう。
時代の世相を内包した芥川賞を読めば、日本という国が見えてくる。
(宝島社 1500円+税)
「そっとページをめくる」野矢茂樹著
世の中には歯が立たない本が多々ある。著者は、「一度読んだだけではよく分からないというのは、むしろチャンスである可能性が高い」という。二度、三度と読み、「あ、そうか」と気づくとき、それこそが「本からの贈り物」だからだ。そんな読書の喜びが味わえる本を紹介してくれる読書ガイド。
「昆虫の交尾は、味わい深い…。」(上村佳孝著)では、交尾中に瞬間冷凍されて結合部を観察される昆虫をわが身と引き換え想像し、「死んだ方がまし」とつぶやき、ラストの素晴らしさについて、河原に腰かけて誰かと語り合いたくなるというマンガ「セトウツミ」(此元和津也著)や、自ら考え知ろうとする知性にはこんな面白い本も珍しいと絶賛の「新哲学対話」(飯田隆著)など。硬軟織り交ぜながら「本からの贈り物」を読者に橋渡し。
(岩波書店 1900円+税)
「寂しくもないし、 孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか」チェコ好き(和田真里奈)著
32歳独身で彼氏なし、非正規雇用で、「幸せの指標」を今のところ一つも手にしていない著者だが、読書によって「本当にほしかったもの」だけはつかみとることができていると自負する。そんな著者が、アラサー・アラフォー女性の不安や迷いに寄り添ってくれそうな本を紹介しつつ、その本から自分は何を考え、何を得たのかを語るブックガイド・エッセー。
ホームレスになってしまう派遣女性社員を描いた小説「神さまを待っている」(畑野智美著)や、ブッダの教えにならい、悩みから自分を解放する方法について書かれた「反応しない練習」(草薙龍瞬著)、そして誰かを愛するとはどういうことかを考える「不倫と結婚」(エスター・ペレル著)など35冊を手引に、くびきから解き放たれ、自由になれる方法を考える。
(大和出版 1400円+税)
「文豪たちの悪口本」彩図社文芸部編
大作家たちが他者を罵る際に発した「罵詈雑言」を集めた「迷言」集。
第1回芥川賞で選外になった太宰治は、選考委員だった川端康成への抗議文を雑誌に投稿。選評で川端に「作者目下の生活に厭な雲ありて」と私生活を批判されたことに腹を立て、「小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す」と、脅迫めいた言葉で逆切れ。
その太宰が尊敬していた中原中也は、初対面で萎縮する太宰に面と向かって「何だ、おめえは。青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」と言い放つ。
その他、女性を巡って絶交した谷崎潤一郎と佐藤春夫、日記に延々と嫌いな相手の悪口を書き続けた永井荷風ら、言葉のプロたちの「言葉の矢」を集めた面白本。彼らの作品を読む目が変わるかも。
(彩図社 1200円+税)
「ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29」ジェイ・ルービン編 村上春樹序文
米国で刊行された近現代日本文学アンソロジーの「逆輸入版」。独自の視点で選ばれた作品は、日本文学の王道からはちょっとはずれるが、序文を寄せた村上氏は、こういう日本文学の捉え方・読み方もあるのかと納得し、何よりも「次はいったいどんなものが出てくるんだろう?」と好奇心がかきたてられたという。「UFOが釧路に降りる」などの自作が収録された氏は、ミステリアスで射幸的な楽しみがあると、本書を「福袋」になぞらえる。
江戸時代の実在の武士の殉死を扱った森鴎外の「興津弥五右衛門の遺書」(1912年)などを収録した「忠実なる戦士」の章から、2011年にデビューした新鋭・澤西祐典の「砂糖で満ちてゆく」(2013年)などが選ばれた「恐怖」の章まで。7つのテーマで構成された短編小説の福袋。
(新潮社 3600円+税)