日本人の祖先は黒潮を横断して上陸?
アフリカで誕生したホモ・サピエンスは、およそ10万年前にはアフリカから出て、ユーラシア大陸全土へと拡散したといわれている。では、私たちの祖先が日本にたどり着いたのはいつで、どんな手段を使っての旅だったのだろうか。
その謎に迫る渾身のドキュメントが、NHKクローズアップ現代+制作班著「3万年前の航海の謎を解く」(徳間書店 1800円+税)である。国立科学博物館の海部陽介博士をリーダーとするプロジェクトを3年にわたって密着取材し、祖先たちの旅の全貌に迫っている。
海部博士のプロジェクトが明らかにしようとしたのは、ホモ・サピエンスがどのような舟と技術を使っていたのかだ。日本では3万年前の遺跡からホモ・サピエンスの化石が現れ始めることから、この頃に大陸から海を渡ってきたのではないかと考えられるという。
しかし、ここで生まれるのが移動ルートの謎。DNAなどの分析からそのルートは3つと考えられており、まず北方ルートは大陸と陸続きだったため歩いてやってくることが可能だ。もうひとつは朝鮮半島からの対馬ルートだが、対岸が見える距離の航海であるため比較的容易だったと考えられる。
最大の謎が沖縄ルートだ。大陸と陸続きだったという説は現在では覆されており、大陸と沖縄の間は広大な海で隔てられていたとされている。ならば3万年前、世界でもっとも速い海流のひとつである黒潮を横断するという高度な航海を、祖先たちはどうやってやってのけたのか。
与那国島に自生するヒメガマという草を使った舟で古代の大航海を再現するなど、困難続きの実験もつぶさに紹介する本書。私たちの祖先の秘密に、一歩近づけるかもしれない。