「MINIATURE TRIP IN JAPAN」田中達也著
身の回りの日用品をまったく別のものに見立てるアート「MINIATURE LIFE」で知られる著者の最新作品集。日本文化をテーマにした本書では、日本各地の風景や風物、行事などを意外な日用品を用いて再現し、アートに仕上げる。
例えば、ストローは門松の斜めに断ち切られた竹に、青い付箋紙は花見の場所取りをするブルーシートに見立てるなど、ごく普通の身の回りの品々によって、さまざまな風景がつくり出されていく。そもそも石と樹木と砂で海や海に浮かぶ島の風景をつくり出してしまう「枯山水」など、「見立て」は古くからある日本の文化であり、著者の作品はそれを「現代のカタチに昇華させたもの」だという。
門松や花見など、月ごとの伝統行事に続いて、日本各地の名勝地を見立てアートで紹介していく。
京都の桂川に流れる渡月橋は「桐の下駄」、新宿御苑の苔むした岩は「抹茶アイス」、盛大に噴煙を上げる鹿児島のシンボル・桜島は「桜島大根」、JR山手線の改札口はバインダーとクリップでと、つくり出したそれぞれの情景に、巧妙にミニチュア人形を配して、物語まで加えていく。
首都高速道路が通行する車のヘッドライトの光で輝く夜景を祝儀袋などでお馴染みの「水引」で再現した「寿ジャンクション」、夕日に染まった空を水田の水面が映し出す日本棚田百選のひとつ石川県輪島の「白米千枚田」を金色の扇を用いて再現した「白米“扇”枚田」など、その発想のユニークさに思わずニヤリ。
他にも、どら焼きを土俵に見立てて「相撲」をとる「どら焼きが1つ、残った残った~」、容器に詰まった「こけし楊枝」に絶妙な段差をつけて「温泉」場を再現した「つまづかないようにご用心」、キャラメルを「将棋」盤に見立てた「勝負をあきゃらめるな」などの日本のカルチャーも見立てアートで紹介。
さらに、焼き鳥を帆船の帆に見立てた「パイレーツオブ鳥ビアン」や、潜水艦に見立てたオムライス「イエロー・オムマリン」など、日本の食文化まで。日本文化をさまざまな角度から取り上げ、その魅力を伝える。
ここまで読んでお気づきのようにタイトルも洒落が利いている。規則正しく並んだ畳目を田んぼに、畳のヘリを畦に見立て、田植えの風景を描いた「田んぼの民、略して“たたみ”」や、織姫と彦星が1年に1度の逢瀬を重ねる橋をそうめんの川の上に架けた「割り箸」で再現する「いずれそれぞれ別れる運命(割り箸のことですよ)」など。ダジャレのようなタイトルも、食材や見た目を別の言葉に見立てるお節料理のネーミングを意識して、つけているそうだ。
「ダイレクトに伝えるのではなく、人に想像させる」この日本特有の「見立て」の文化を、日本人にはもちろん、海外の人にも広く知ってもらいたいと、すべての解説に英訳が添えられているので、訪日外国人客へのお土産などにも最適だ。
(小学館 1800円+税)